A-cars Historic Car Archives #003

'70 Dodge Challenger Convertible

●70年型ダッジ・チャレンジャー・コンバーチブル


Text & Photo : よしおか和

(MOPAR Classics/2009 May Issue)

 May 10, 2024 Upload

 筆者には到底信じられない話だが、現行のダッジ・チャレンジャーの購入を検討するユーザーの中にはオリジナル、つまり現在から約40年前に誕生したあのいかにも個性的なチャレンジャーの存在を知らない人も少なくないという。それは、単純に世代のせいだけではなく、現代のアメリカン・マッスルに興味を抱く人が、必ずしもかつてのアメリカン・マッスルをも知るとは限らない、いや、むしろ以前はAカーそのものに興味を持っていなかった、という事実を示しているようだ。ヨーロッパ製のソツのない高性能車の愛好者たちからは“真っ直ぐに走ることしか芸のない”、“無駄にガスばかり喰う”などと語られてきた歴代のハイパフォーマンス・Aカーだが、時代の移り変わりによって、やっと彼らにもそれが現実的に興味の対象となったわけで、これはあるいは喜ぶべきことなのかもしれないが、正直なところなんとも複雑な心境でもある。しかし、改めて思い返してみると、本誌で筆者がこのチャレンジャーというモデルについて一から解説したのはもう随分と前の話であり、今月はこのコーナーを借りて久しぶりにそれをやってみたい。あるいは創刊からの古い読者にとっては「なにをいまさら」かもしれないが、お付き合い願いたい。

 60年代中盤以降、Aカーの歴史を最も大きく変えたのはフォード・マスタングだった。1964年4月に誕生したマスタングは、それまで存在しなかった小型でスポーティなスペシャリティカー=ポニーカーというジャンルを新たに確立し、若者を中心に絶大なる人気を得た。当然ライバルメーカーたちがこれを黙って見過ごすわけもなく、67年型でシボレー・カマロとポンテアック・ファイアーバード、68年型ではAMCジャベリンと、次々にマスタングと似たコンセプトの新型モデルが発表された(67年型でFoMoCoの上級ブランドであるマーキュリーからクーガーがデビューしていることも忘れてはならない)。また、66年からスタートしたSCCAトランザム・レースも少なからず影響し、ポニーカーは各社にとって非常に重要なマーケットに発展したのである。

 ところが、クライスラーはこのポニーカー・ウォーズに関して明らかに遅れをとっていた。既存のモデルとしてダッジ・ダートGTやプリマス・バリアント・バラクーダがあるにはあったが、鼻息を荒くするライバルたちにはとても適わなかった、というのが筆者の率直な感想である。そして、クライスラーが改めてこのマーケットに新たなスポーティ・モデルを投入しようと計画したのは、カマロやファイアーバードが登場した後の話だった。新型車は既存のシャシーを流用することなく新開発とし、ダッジ、プリマス両ディビジョンから兄弟車種として発表されることが決定。さらに、それぞれのスタイリングは別々のデザイナーが担当することになった。ダッジのデザインを担当したはカール・キャメロン、プリマスのデザインを担当したのはマッティ・マツウラ。そして前者、キャメロンのデザイン画が完成したのは67年2月のことである。エッジを効かせたシャープなフォルム、低くワイドに構えた挑発的なスタイルは、まさにその名に相応しかった。そう、この新開発されたシャシー(Eボディ)によるポニーカーの兄弟車こそが、ダッジ・チャレンジャーとプリマス・バラクーダであり、前者は鮮烈なデビュー、後者は華麗なるフルモデルチェンジを、それぞれ70年型で果たしたのである。

 

 

 この両車は共通したコンセプトの下に作られたスポーティカーだったが、デザイナーが異なることでそのイメージも異なり、実はホイールベースもチャレンジャーの方が2インチほど長く設定されていた。チャレンジャーのボディにはより鋭いプレスラインが施され、車幅も若干広く、見る者により強くワイルドな印象を与えた。デビュー翌年に公開されたアメリカン・ニュー・シネマの傑作『バニシング・ポイント』で主役とも言えるほどの存在感を示したこともあって、アウトロー的なイメージをそこに重ねてしまうのは決して筆者だけではあるまい。ちょうど同じ時代にカマロとファイアーバードもフルモデルチェンジを遂げているが、それらライバルたちも含めた中においても最もワルっぽいキャラクターを持ったクルマがこのチャレンジャーだったことは誰もが認めるところだろう。

 デビュー時におけるチャレンジャーの搭載エンジンは、225cuinのスラント6からあの426HEMIまで、実に9種類という豊富なバリエーションを持っており、HOTバージョンとなるR/TではビッグブロックV8の383マグナムが標準搭載された。なお、このR/Tモデルは、俗にラリーフードと呼ばれるエアインダクト付きのエンジンフードや、カットされたリアのバランスパネルにフィニッシュする片側2本、合計4本のエキゾーストチップなどが備わっている点などが、スタンダードモデルと判別するルックス上のポイントとなる。また、この70年型チャレンジャーに用意されたエクステリアカラーは全部で19色に及び、R/Tモデル独自のストライプ・デカールなども数タイプが存在する。さらに、バイナルトップの有無やリアウィンドウのサイズが異なるSEパッケージを合わせると、外観だけでも憶え切れないほどの仕様が実在することになり、なんともワクワクとさせられるのだ。

 サスペンションはフロントがトーションバーでリアがリーフ・リジッド。そのほかブレーキもハンドリングも特に斬新なメカニズムが採用されているわけではないが、実際にドライブしてみると明らかにAボディや60年代のBボディとは違う新しいフィーリングを実感できる。そしてそれは単純にアームの取り付け位置やドライバーズシートのポジションによるところなのだが、だからこそ余計にクルマの設計の奥深さを知るのである。

 チャレンジャーは翌71年型で主としてフロントマスクおよびテールのデザインを変更。さらに72年型以降はハードトップ・クーペのみとなり、74年型を最後に生産が中止された。今回はこの解説をする目的ならなるべくオリジナル度の高い個体を選ぶと同時に、春到来ということもあって70年型のコンバーチブルにご登場願った。この個体はマッチングナンバーではないものの、細かなディテーリングに至るまで厳しい目と優れたセンスの下にビルドされ、そのまま維持されてきた1台である。 

 



70年型チャレンジャーの標準搭載エンジンは318cuinV8もしくは225cuin直6。チャレンジャーR/Tの標準は383マグナムとなり、440マグナム、440-6パック、426HEMIは基本的にR/Tモデルのオプションとしてラインナップされた。なお、スモールブロックV8のハイパフォーマンス・ユニットである340cuinV8を搭載するモデルはチャレンジャー340と表記され、R/Tとは区別される。さらにこの70年型のみにSCCAトランザムのホモロゲーション・モデルであるチャレンジャーT/Aが存在し、こちらは340-6パックを搭載した。また、スタンダードのチャレンジャーにはオプションとして383cuinV8(383マグナムとは別のユニット)の2バレル仕様と4バレル仕様が用意されていた。撮影車が搭載する440マグナムはボア4.32×ストローク3.75インチで、圧縮比は9.7:1。最高出力375hp@4600rpm、最大トルク480lbft@3200rpm。ハイドラリック・バルブリフターを採用し、クランクシャフトはフォージドスチール製、メインキャップは2ボルトとなる。エンジン・エナメルはレースHEMIオレンジで、エアクリーナーハウジングの上に装着されるプレートもオレンジとなる(69年型までは赤だった)。


撮影車はファクトリーA/C装備車で、オリジナルのコンプレッサーを採用している。現在では134タイプのアフターマーケットパーツを採用するケースが増えたこともあり、このようなオリジナルのエンジンコンパートメントを目にする機会も少なくなった。


ゴーウイングと呼ばれるリアのウイング・スポイラーは兄弟分のバラクーダとも共通したオプション・アイテム。


撮影車はセンターキャップ付きのカラード・スチールホイールに、当時流行したグッドイヤーのポリグラスGTを履く。タイヤサイズはF60-15だが、チャレンジャーに用意されていた15インチのホイールはHEMIカーとSCCAトランザムのホモロゲーション・モデルだったT/Aに標準装備されたラリーホイールだけであり、このカラード・ホイールも70年当時は14インチしか存在していなかった。撮影車の履く15インチ仕様は、後の時代にMOPARマッスル・マニアのリクエストに応えてプロダクトされた商品のようである。


ブラックバイナルのオリジナル・インテリア。損傷のないオリジナルのダッシュボードは現在では貴重なパーツと言える。ちなみに、この70年型に限り、チャレンジャーとバラクーダのダッシュボード・デザインが異なっており、それぞれパッセンジャー・サイドの端に車名を綴ったバッジが埋め込まれている。これが翌71年型ではバラクーダ用のデザインで統一され、ネームのバッジもダッシュボードそのものを共有できるようにプレート式(貼り付けるタイプ)に変更されている。つまり、写真のダッシュボードは70年型チャレンジャーだけに採用された独自のアイテムなのである。


マニュアル・トランスミッションのシフターはピストルグリップと称される独特なデザインによるもの。その名のとおりピストルのグリップと似たデザインが特徴で、60年代のMOPARマッスルでは見られなかったアイテムである。