A-cars Historic Car Archives #004

'67 Chevrolet Corvette Sting Ray Convertible 427 (L68)

●67年型シボレー・コルベット・スティングレイ・コンバーチブル


Text & Photo : よしおか和

(C2 Convertible with Rat Motor/2007 Oct. Issue)

May 17, 2024 Upload

 67年型。第二世代コルベット=C2最後のこの年、“スティング・レイ(Sting Ray)”としてもこれが最後のモデルとなる(C3はデビュー年の68年型ではサブネームがなく、69年型からは同じ発音でもスティングレイ(Stingray)と一語で表記される)。

 この67年、より現代的なスタイルへと変身させるべく、内外観にはいくつかの手直しが施された。ホイールは標準でラリーホイールを履き、デビューから66年型まで継承してきたホイールカバーの仕様を廃している。また、細かなことではあるが、ロッカーモール下を黒くペイントしたのも、車高を低く、よりスタイリッシュに見せるのに一役買っている。もっとも、撮影車はオプションであるRPOコードN14のサイドマウント・エキゾーストを装着しているので、この記述はそのまま当てはまらないかもしれないが……。さらにオプションといえば、撮影車が履いているホイール。これはフィンタイプのキャスト・アルミニウム・ホイールだが、“ノックオフ”ではなく、スピンナーも姿を消している。実はこれはRPOコードP89の“ボルトオン”ホイールであり、前年までの突起したスピンナーに対して連邦政府が安全性に疑問を示したことを受けて新たに登場したアイテムである。そのほか、フェンダーのスリットが斜めの5本になったとか、パーキングブレーキのレバーがセンターコンソール上に移動したとか、この67年型における変更点は数多い。だが、ここで最も注目したいのは、豊富なオプショナル・エンジン・ラインナップである。

 

 

 

 66年型ではオプションのラットモーターが396から427へと変更になり、その中にも標準型のL36/390hpとハイパフォーマンス型のL72/425hpの2種類が存在した。だが、この67年型ではさらにそのバリエーションが増し、オプション・リストには5種類の427ユニットが並べられていたのである。簡単に説明するならば、まず基本的に標準型とハイパフォーマンス型があることには変わりはない。両者の違いはシリンダーブロックが2ボルトメインか4ボルトメインか(※1)、クランクシャフトがナージュラー・アイアンかフォージド・スチールか(※2)、シリンダーヘッドがオーバルポートかレキュタンギュラーポートか、といったところから判断できる。標準型の最もベーシックな仕様となるのがL36/390hpで、これにホーリーの2バレル・キャブレターを3連装したものがL68/400hpである。対してハイパフォーマンス型の最もベーシックな仕様は66年型に存在したL72となるわけだが、なぜか67年型のリストからは外されている。その代わりに登場したのがそのL72にL68と同じ3×2バレル・キャブレターを組み合わせたL71/435hpで、さらにそのアルミヘッド仕様がL89/435hpとなる。そしてさらにその上に君臨したのが、圧縮比12.5対1のフルフロー・フォージドアルミ・ピストンを採用し、ラフアイドルのハイリフトカムを組み、モンスター級のホーリーR3418Aを載せたL88である。こちらはカタログ数値では430hpとなっていたが、これはあくまで本来の最高出力値よりも低い回転域での数値を示したもの。実際には最低でも550hp以上を絞り出したといわれるレース用ラットモーターだった。

 この中で、当時最も人気が高かったのはL71らしいのだが、実際には11.0対1という高圧縮比、ワイルドなカムシャフト、そしてソリッド・バルブリフターの採用によって定期的なバルブクリアランス調整を必要としたことなどもあって、決してデイリー・ドライバーに適したモデルではなかったようだ。今回撮影したのは、同じ3×2キャブレターでも、ハイドラリック・バルブリフター仕様のL68。これを13年間愛用しているオーナーによれば「酷い渋滞にでも遭わない限り、フツーに乗れますよ」とのことで、猛暑の中で行われた今回の撮影現場にも、ファクトリーA/Cを効かせて涼しい顔で現れた。ちなみに、真紅のボディに白いストライプを描くエアスクープ付きのエンジンフードは427エンジン搭載車の証として、この67年型だけに用意されたものである。

 

 

 ※1

2ボルト・メイン/4ボルト・メイン

メイン・ベアリング・キャップを固定するボルトの数の違いを指す。エンジンが高出力になるほど、クランクを支えているメイン・ベアリング・キャップにかかる負担も大きくなるため、より強度を持たせるためにこれを固定するボルトの数が増える。よって、基本的に2ボルト=ノーマル、4ボルト=ハイパフォーマンスと考えてよい。

 

※2

ナージュラー・アイアン/フォージド・スチール

素材である鉄の種類であり、ナージュラー・(キャスト・)アイアン(Nodular cast iron)とはマグネシウムなどを加えて分子構造を変化させることで強化した鋳造鉄(合金)のこと。フォージド・スチール(Forged Steel)は鍛造処理によって強化された鉄(合金)のこと。ハイパフォーマンス用途のエンジンでは、ピストンやクランクなどの素材として鍛造鉄を用いるケースが多い。

 

 




撮影車の搭載エンジンはL68、ボア4.251×ストローク3.76インチの427cuinV8である。このL68は同年のエンジン・ラインナップにおいて最もベーシックな427cuinV8であるL36にトリプルキャブレター(3×2バレル)を組み合わせたもので、圧縮比は10.25:1、最高出力400hp@5400rpm、最大トルク460lbft@3600rpmとなっている。ホーリーの2バレル・キャブレターを3基連ねるこのシステムはコルベットとしては初の試みであり、通称トライパワーなどとも呼ばれた。ちなみに、このL68ではバルブリフターは油圧式となり、トランスミッションはパワーグライドATを選択することが可能だった(L71ではトランスミッションはマンシー4速マニュアルに限定される)。


トライパワーはコルベットにおいてはこの68年型で初採用されたシステムだが、ポンテアックにおいてはその原型的なシステムが50年代から採用されていた。トライパワーのシステムは、2バレル・キャブレターが3基縦に並んだカタチとなっており、センターの2バレルがアイドル時や低速域で稼動するプライマリーで、前後それぞれの2バレルが加速時に稼動するセカンダリー。セカンダリーはキャブレターのベンチュリー・バキュームを感知するダイヤフラムによって開く構造となっている。つまり、通常の走行では2バレルで燃費を抑え、フルスロットル時には大量の混合気がバランスよく各シリンダーに送られるというシステムである。だが、当時はこのシステムを理解しない未熟なメカニックも多く、混乱を極めた例も少なくなかった。これは、エンジンをまわしていても負荷がかからないとセカンダリーが働かないため、その構造が理解できなかったことが理由だろう。その結果として“トライパワーは使い物にならない”と、外されてしまうこともあったという。


エンジンフードにエアスクープが設けられ、そこにボディカラーとは異なるストライプが描かれるのは、67年型の427エンジン搭載車に限られる。ストライプの色はブラック、ホワイト、レッド、ブライトブルー、ティールブルーの5色。


インテリアではまたしてもシートのデザインが変わり、レザー仕様では表面に細かなディンプル加工が施された。また、急ブレーキの際にシートが前方に倒れ込まないように、レバーで確実にロックできるようになったのもこの68年型からのこと。ダッシュまわりのデザインなどは基本的に変わらないが、この68年型ではパーキングブレーキのレバーがセンターコンソールにレイアウトされるようになった。小さな変更ではあるが、実際に運転してみると、この違いは結構大きく感じる部分。

 


ライセンスプレートの上に長方形のバック・ランプが備わったのも67年型における変更点。66年型までは4灯のテールレンズの内側2灯がクリアだったが、この変更に伴い、67年型では全てレッドのレンズに変化している。


オプションのアルミホイールは前年までのP48“ノックオフ”から、P89“ボルトオン”へと変更になった。この変更は側面に飛び出したスピンナーが歩行者や二輪車に接触する危険性を考慮したことによる。ちなみに、ノックオフ・ホイールの装着にはハンマーが必要だったが、ボルトオン・ホイールではハブボルト部分を覆う“スターバースト”カバーの取り外しにスクリュードライバーが必要となり、車載工具の内容もこれに合わせて変更されている。