A-cars Historic Car Archives #010

'72 Buick Riviera

●72年型ビュイック・リビエラ


Text & Photo : よしおか和

(Buick Clasiccs/2009 Jly. Issue)

 Jun.14, 2024 Upload

 スペシャリティ・クーペ……それは現在でこそ世界中に通用するキーワードとなっているが、いちばん最初にこのジャンルのクルマを作り出し、確立させたのはAカーである。こう書くと、多くの人はフォード・マスタングを思い浮かべるかもしれない。確かにそれをより身近な存在にしたのはマスタングだが、そのルーツを探ればもう少し前のビュイック・リビエラに辿り着く。

 リビエラのデビュー・モデルイヤーは1963年。既存のフルサイズ・ボディよりは小さく、コンパクトなスペシャル・シリーズよりは大きい117インチ・ホイールベースの新たなるシャシーに、401cuinまたは425cuinのV8モーターを搭載。後輪を駆動する極めてトラディショナルなメカニズムと、独創的なデザインを持ったラグジュアリー・クーペとして、リビエラは誕生した(実はさらにこれより1年前にポンテアックが2ドア・ハードトップのみにボディスタイルを限定したグランプリを発表しているのだが、基本的な設計とデザインがボンネビルと共通しているので筆者としてはリビエラを最初のスペシャリティ・クーペと呼びたい)。そして、今月クローズアップしたのはその第3世代モデルとなる72年型だ。

 第2世代の66年型からオールズモビル・トロネードと共通のEボディ・プラットホーム(これは翌年のキャデラック・エルドラドとも共通するが、リビエラだけがRWDレイアウトだった)をベースとしたリビエラは、71年型で華麗なる変身を遂げた。その最大の特徴となるのが、この個性的なボートテール・スタイルである。これはもともとC2、つまり第二世代のコルベット・クーペで採用されたデザインであり、明らかにそれを応用したものだ。ちなみにC2はラリー・シノダ、リビエラはジェリー・ハーシュバーグとそれぞれデザイナーは違っているものの、どちらの仕事もあのビル・ミッチェルの指揮下でなされたものであることは共通している。

 

 

 リビエラはモデルチェンジを遂げるごとにホイールベースを延長し、この第3世代においては122インチ(約3099㎜)と、従来のフルサイズ・シリーズに肩を並べるまで大型化していた。ちなみに全長は218.3インチ(約5545㎜/72年型の数値)、全幅は79.9インチ(約2029㎜)、全高は54.0インチ(約1372㎜)となる。そして今回その独特のフォルムをファインダーに捉えながら、奇抜なボートテール・デザインがより一層の迫力をもたらしているのはこのサイズがあってこそなんだ、と改めて実感した。グロテスクな程に強烈で、それでいてあまりにも流麗で美しいラグジュアリー・クーペは、間違いなく70年代だからこそ存在し得たシロモノだろう。

 取材車の搭載エンジンはビュイック製の455cuinV8。ポンテアックやオールズモビルにも同排気量のエンジンは存在するが、その設計デザインは完全に異なっており、ポンテアックがボア4.15×ストローク4.21インチ、オールズモビルがボア4.125×ストローク4.25インチなのに対し、ビュイックの455cuinV8はボア4.31×ストローク3.90インチと極端なショートストローク型になっている。それは実際にドライブしてみるとはっきり体感できるところであり、実に軽快に吹け上がっていくのが特徴である。

 超個性的なスタイルの美しいクーペが、ピックアップのいい大排気量のV8モーターを搭載し、その仕様と装備はラグジュアリー。しかも71~73年型までの3年間だけしか生産されなかったレアな存在となれば、コレクタカーとしてバリューが上がらない訳がないのだが……なぜか数年前までは本国でも意外なほど現実的な価格で取引されていた、という印象が強い。だが、さすがに最近では市場の台数も激減し、プライスボードの数字も鰻上りにあるようだ。

 今回の撮影でそのセクシーでチャーミングなリアスタイルを味わいながら、これを現在よりもずっと手軽に買えた時代に入手しなかったことを少し後悔した。考えてみれば、こんなにAカーらしいAカーも他にそうそうないからだ。まあ、いまさら悔やんでも仕方がないが、とりあえず取材を終えて仕事場に戻った筆者は、撮影した写真データをパソコンに転送する前に、ネットオークションを開いてリビエラのミニカーを落札した。

 

 


奇抜なボートテールに併せてボディサイドに描かれた大胆なプレスラインもまた、このモデルの個性を強調している部分。日本ではスカイラインのサーフィンラインが有名だが、こちらの方がより波乗りを強くイメージさせるのでは?


なんと言ってもこの時代のリビエラ最大のチャームポイントはこのリアの造形。俗にボートテールと呼ばれる個性的なスタイルは、あのビル・ミッチェルの指揮下において、ジェリー・ハーシュバーグがC2のデザインをさらに発展させて生み出したものだ。先端が尖ったバンパーも印象的だが、翌73年型では連邦安全基準の変更に伴い少々のデザイン変更を余儀なくされ、結果としてこのバンパーの尖り具合も随分と大人しいものへと変化した。


第三世代リビエラの特徴的なデザインのひとつに、この逆スラントしたフロントマスクも挙げられる。


搭載エンジンはボア4.31×ストローク3.90インチの455cuinV8。圧縮比は8.5:1で、最高出力250hp@4000rpm、最大トルク375lbft@2800rpmという実力を持つ。キャブレターはロチェスター製の4バレル。実際に走らせてみると、ショートストローク型のV8の特性、つまり、レスポンスがよく、大排気量を感じさせない軽快な吹け上がりを如実に体感できる。


個性的なデザインはエクステリアに限らず、このユニークでゴージャスなインテリアもまたスペシャリティなモデルに相応しい。ちなみにフロントは6:4のセパレート・ベンチシートとなっており乗車定員は6名。


クロームのスポークが美しいビュイック独自のラリーリム。当時の標準タイヤサイズはH78×15。