A-cars Historic Car Archives #012
'71 Pontiac Firebird Trans Am 455H.O.
●71年型ポンテアック・ファイアーバード・トランザム・455H.O.
Text & Photo : よしおか和
(The Great American Muscle Cars '60s-'70s/2021 Aug. Issue)
Jun. 28, 2024 Upload
晴天の霹靂だっただろう。
70年型で最強のポニーカーを作り上げたと自負していたであろうポンテアックの開発陣たちを衝撃が襲ったのは、販売開始から半年後のこと。米議会でマスキー議員が提唱した排ガス規制に関する法案が可決され、各メーカーは燃料の無鉛化を実現させる必要に迫られたのだ。GMはいち早くこれに対応する姿勢を示し、圧縮比の高い400ラムエアⅢとⅣの製造は断念せざるを得なくなったのだった。
ここでポンテアックのエンジニアたちが考えたのは、ボンネビルやグランプリに搭載していた455エンジンをトランザムに流用することだった。455のボア×ストロークは4.15×4.21インチ。400よりもロングストローク型で、トルクフルな性格を持ち合わせたV8エンジンである。もちろん無鉛ガソリンを使用する前提で圧縮比は8.4:1とかなり低めに抑えられたが、それでも最高出力335hpと、以前と変わらぬ数値を保つことに成功した。このエンジンが455H.O.(ハイ・アウトプットの略)で、排ガス規制後の無鉛ガリリン・エンジンとしてはGM全体、アメリカ車全体を通しても最強の部類に入る名機となった。そのネーミングはそのままモデル名としても採用され、71年型と72年型のトランザムはすべて“トランザムH.O.”と称される。ただそのルックスは基本的に70年型から変化がなく、カラーリングもホワイト×ブルー・ストライプとブルー×ホワイト・ストライプに限られていた。
71年型のトランザムH.O.はMT仕様が885台、AT仕様が1231台製造された。そしてAT仕様の一部は日本へも正規輸入され、撮影車はそのうちの1台である。当時はその派手なルックスに加えて、455cuin=7500ccという大排気量のV8エンジンを搭載したモデルということで注目を浴びたが、自動車専門誌から「大排気量ならではの加速は物凄いが、コーナーリングはダルで燃費は最悪」と酷評されたこともあって色眼鏡で見られる傾向もあり、生粋のアメリカ車マニアと芸能界やその他特殊な業界にだけ受け入れられた感が強い。ただし、70年代も半ばを過ぎると中古車市場においてアメリカ車が格安と評判になり、トランザムは『アメリカン・モンスター』などと呼ばれてもてはやされ、その後の“アメ車ブーム”では人気モデルとなった。
トランザムH.O.に搭載されたハイパフォーマンス版の455cuinV8であるLS5は、71年型のカタログ数値で335hp@4800rpm、480lbft@3600rpmという実力。撮影車は当時の正規輸入車であり、エンジンルームではその証であるディーラー・プレートも確認できる。
15インチのラリーⅡリムにクロームのトリムリングという組み合わせは70年型と同様。オリジナルのサイドマーカーの上に増設されたターンシグナルは日本の法規に合わせた仕様で正規輸入車の証でもある。
フロントまわりに特徴の多いトランザムだが、このリアスポイラーも特徴のひとつ。71年型のボディカラーは前年同様、ホワイト地にブルーかブルー地にホワイトの2パターンのみ。トランザムのカラバリが増えるのは73年型からだ。
プリズムテープを彷彿させるメタリックな化粧プレートを採用したインパネとレーシーな3本スポークのステアリングホイールもトランザムの特徴のひとつ。ブラックバイナル仕様のシート&トリムはオリジナルのままにある。