A-cars Historic Car Archives #013

'66 Ford Mustang Hardtop

●66年型フォード・マスタング・ハードトップ


Text & Photo : よしおか和

(FoMoCo Classics Special/2007 Feb. Issue)

 July 5, 2024 Upload

 

 いきなり私事で恐縮だが、筆者が現在明けても暮れてもAカー漬けの毎日を送るきっかけとなったのがマスタングだった。子どもの頃にロードショーで『ブリット』を観てS・マックィーンの駆ったファストバック・クーペに憧れ、いまからちょうど30年ほど前に、年式こそ違うがそれを実際に手に入れた。しかし、僅かなお金で手に入れたそのマスタングは、まともに走ることもできないポンコツで、その後2年の歳月をかけてレストアを行うこととなった。そんなこともあって、第一世代マスタングには特別な思い入れがある。理由は様々だろうが、同じようにこのクルマに特別な思いを抱いている人は少なくないだろう。そして、われわれ以上にアメリカ人にはその傾向が強い。

 2005年型で登場した現行マスタング(編集部注=S-197)は、日本ではやっと正規ディーラーが販売を開始したばかりだが、本国では予想以上の大ヒットとなっている。そのヒットの大きな要因が、かつてのマスタングを彷彿とさせるデザインだから、ということは言うまでもないだろう。

 今月は、改めて40年以上に及ぶその歴史のルーツに迫ってみることにした。第1世代のマスタングは、64 1/2~66年、67~68年、69~70年、71~73年の4年代で区別されるのが一般的なので、各年代から1台ずつご登場願った。さあ、とくとご覧あれ。

 



 1964年4月17日にデビューを果たしたマスタングは、空前の大ヒットを飛ばし、その年のインディ500ペースカーにも選出された。65年に55万台、66年には60万台という販売台数は、21世紀になった現在でも破られていない記録である。ここに紹介したのは66年型のハードトップで、65年型以前とは細部のディテールなどが若干異なっているものの、初代ポニーカーであることに間違いはない。ファルコンのシャシーを流用しているとはいえ、ロングノーズ&ショートデッキのスポーティなフォルムは全く独自のイメージを抱かせるもので、Aカーの世界にそれまで存在しなかった新たなるジャンルを確立させたことはご承知の通りである。

 搭載するエンジンは直列6気筒が標準だったが、一番の人気はやはりV8で、289cuinのオリジナルユニットは軽快かつパワフルという評判を取り、現在でも多くのファンに愛されている。撮影車も289を備えるモデルでなかなかヘルシーなサウンドを奏でていたが、コンパートメントは現代風に整えられており、アフターマーケットパーツの採用も随所に見られるので念のために記しておこう。加えて、フォグランプを伴うフロントグリルやエキゾーストチップがデュアルでバランスパネルにレイアウトされるシステムはGTエクイップメントをスワップしたもので、本来のスタンダードモデルの仕様とは違っている。

 

 

 インテリアに注目すると、ローバックシートの背もたれ部分に複数の馬が走っている図柄がエンボス加工によって施されているが、これが俗にポニーインテリアと呼ばれるトリムであり、クラシック・マスタングのフリークにとって価値のあるアイテムのひとつとなっている。また、この世代のモデルに関してはインパネ内にレヴカウンターがレイアウトされておらず、オプションとして選択すると写真にあるようにステアリングコラムにクロックと一緒にセットされた。これは通称“ラリーパック”と呼ばれるアイテムで、現在OEMパーツを入手することが難しいこともあって珍重されている。

 この時代のマスタングは、先にも書いたように数多くの台数がリリースされた。それもあって、70年代~80年代おいては、中古車市場で比較的安く購入できたモデルであり、本国では高校生が通学に使うクルマ(=免許取り立ての若者が低価格で買うことができる中古車)というイメージが強かった。しかし、クラシック&コレクタブルとしてのバリューが高まった今日、素晴らしいコンディションにある車両は驚くほどの高値で取り引きされている。ボディサイズもコンパクトで、Aカー独特のダイナミックさの中にヨーロッパのスポーツカーたちを意識した繊細さも巧く表現されている初代マスタングは、たとえばハリウッドのセレブたちからも高い支持を得ているのである。

 


66年型マスタングの標準ユニットは200cuin直列6気筒。その上にオプションとして3種類の289cuinV8がラインナップされていた。取材車はその289V8のCコード、最高出力200hpの最もベーシックな2バレル仕様を搭載。オーナーの意向によりホーリー製キャブレターやICオルタネーターを採用しており、取材当日はとてもヘルシーなエキゾーストを轟かせていた。


フロントグリル内に収まるフォグランプ、リアのアンダーパネルにデュアルでフィニッシュするエキゾーストなどはGTエクイップメントに含まれたアイテム(フォグランプはクリアだった)。これらは後にこの車両にスワップされたものだ。


オプションの14インチ・スタイルド・ホイールにホワイトリボンという組み合わせも、オーナーがオリジナルスタイルを大切にしていることが窺える部分。このスタイルド・ホイールは当時V8モデル専用のオプションだった。オリジナルのタイヤサイズは6.95×14。取材車が履いているのは195/75R14。


細部に手が加えられているものの、全体的にオリジナルのデザインが大切にされていることがわかるインテリア。ウッドステアリングの割れは、洋の東西を問わずオーナーの悩みの種といえる部分だ。取材車はラリーパック(ステアリングコラム上に付くタコメーター&クロック)が後付けで装着されているが、このラリーパックは横長のスピードメーターに対応したもの。65年中盤より、取材車のような5ゲージモデルには、ロープロファイル・タイプ(RALLY PACKの文字が入った中央のプレートがない=中央のスピードメーターと重ならない)のラリーパックが設定されている。また、シートバックに浮かぶ野生馬の姿は、この車両がポニーインテリアを搭載していることを物語っている。