A-cars Historic Car Archives #015

'69 Ford Mustang Mach1

●69年型フォード・マスタング・マック1


Text & Photo : よしおか和

(FoMoCo Classics Special/2007 Feb. Issue)

July 12, 2024 Upload

 69年型でマスタングは再び大きな変身を遂げた。それはまさにV8パワーウォーズがエスカレートし、絶頂期に達した時代を反映していた。よりマッチョに、よりワイルドに、そしてよりスタイリッシュに、と表現しても間違いはないだろう。フロントマスクはヘッドライトまわりがさらに鋭く抉られ、4灯式を採用したことによって一段と精悍な顔つきになっている。この4灯式はロービームとハイビームがひとつのベゼルに収まっているわけではなく、ハイビームがラジエターグリルの中に埋め込まれるカタチになったもの。その両者の取り付け位置に段差がついているのが特徴的だ。

 前後フェンダーの張り出し具合も目立つようになった。ファストバックではクォーターのプレスラインがよりダイナミックなものとなり、サイドスクープも備えられた。また、クォーターウィンドウが設けられたのも特筆すべき点で、リアエンドは絶妙に切れ上がり、いわゆるダックテール・スタイルを作り出している。

 

 

 今回この年代の代表選手として撮影したのは、そのファストバック(正式にはこの年式からスポーツルーフと称した)の上級グレードとなるマック1(われわれ日本人にはマッハ1と呼んだ方が親しみやすいかも知れない)である。ただし、写真の仕様=マック1と勘違いされる恐れがあるので予め解説しておくが、60年代のマスタングは基本的にフルチョイス・システムを採っていて、豊富なオプション・アイテムをひとつひとつユーザーが選択した。つまり、そこには1台ずつ全く違う仕様のクルマが完成するわけである。本来マック1の標準装備はブラックアウトされたエアスクープ付きのエンジンフードとサイドのストライプ・デカール、そしてインテリアトリムがデラックスな仕様になるだけ。撮影車ではフロントおよびリアスポイラーにキックルーバーが追加されて一層過激なイメージを抱かせるが、これらはあくまでもオプションアイテムなのである。なお、フード下には最高出力290馬力の351cuinV8・4バレルが息づいているが、これがマック1の標準ユニットであり、その他には320馬力の390cuinと335馬力の428コブラジェットがラインナップされていた。

 もちろん、いちばんの魅力となるのはこのグラマラスなルックスに見合った走りである。スロットルペダルを踏みつけると、ややフロントを持ち上げて、テイク・オフ・スタイルともいえるような特徴的な加速姿勢を見せる。そんな中にあるドライバーの気分を高めているのが、スパルタンなムードのインテリアであり、シンメトリカルなダッシュのデザインは、航空機のコクピットをも連想させる迫力がある。

 今日、FoMoCoマッスルを代表するモデルとしてますますそのバリューを高めている69年型マスタング・マック1。今回撮影した中でも、最もオトコ臭い1台といっていいだろう。

 


搭載するのはマック1の標準となる4バレル仕様の351cuinV8。最高出力は290hp。同年のエンジン・ラインナップを排気量別に見ると、200cuinと250cuinの直6と、302cuin、351cuin、390cuin、428cuin、429cuinのV8という幅広いバリエーションを持っていた。さらに2バレル/4バレルの違いや、ハイパフォーマンス仕様の存在なども含めると、その選択肢はさらに広がることになる。


フロントスポイラー、リアウイング、キックルーバーなどはいかにもマック1のイメージに合ったアイテムだが、これらは独立したオプション・アイテム。ただし、つや消しのブラックで塗られたエアスクープ付きエンジンフードはマック1ならではのアイテム。エアスクープはダミーで機能しない。また、このフードは取材車のようにフードピンで固定するタイプが標準だったが、ユーザーの好みによってフードピンがない仕様も選択可能だった。


インテリア・デザインも再び大きく変化。インパネに開いた穴の奥深くにメーターが備わることで、よりインパネやダッシュパネルが手前に迫り出しているように感じられ、ドライバーにタイトな印象を与える。ウッド調パネルをあしらったセンターコンソール、ドアパネル、インパネなどは全てマック1の標準装備。ステアリングは交換されているが、標準ではリムブロータイプ(リムを握るとホーンが鳴る)の3スポークがセットされた。また、マック1のシートはハイバックタイプのバケットが標準。リアシートのシートバックを前に倒して後席部分をフラットなカーゴスペースとすることができるのは、ファストバック(正式にはこの年からスポーツルーフと呼ばれるようになった)の特徴だ。


69年型マック1ではスタイルド・ホイールが標準で装備されたが、取材車はマグナム500ホイールをセットアップしている。