A-cars Historic Car Archives #016
'73 Ford Mustang Mach1
●73年型フォード・マスタング・マック1
Text & Photo : よしおか和
(FoMoCo Classics Special/2007 Feb. Issue)
July 12, 2024 Upload
71年型でマスタングはさらに大型化した。ホイールベースを1インチ拡張し109インチ(約2769mm)とした他、全長を189.5インチ(約4813mm)、全幅を74.1インチ(約1882mm)まで拡大している。シャシーの基本設計が共通しているところから、この71~73年型までが第1世代と括られているものの、クルマを見比べての印象を正直にいうならば、初期型ポニーとは全くの別モノである。
さて、ここで紹介するのはその中でもファイナル・モデルイヤーとなる73年型のマック1である。73年といえば、日本では貿易の自由化に伴い並行輸入による新車があちらこちらで販売された年であり、当時は街道沿いのショールームでこのマック1をよく目にしたものだ。60年代の風貌とは全く異なるスクエアなイメージのフロントマスクを与えられたその野生馬は、とにかくデカくてカッコよかった。ルーフから直線的にリアエンドへと至るラインが特徴的で、ほとんど上向きに取り付けられたリアガラスに驚き、さらにこの大きなリアウイングに仰天したことをいまでもはっきりと記憶している。しかし、この個性的なスタイルにもっと強烈な衝撃を受けたのは、それから何年か後に実際に自分でステアリングを握ったときだ。もしかするとそのクルマが少しヒップアップしていたからかもしれないが、ルームミラーでリアウィンドウ越しの景色を見ても、ほとんど空しか映っていなかったのである。
そんな経験もあって、カッコよくも運転のし難さナンバーワンという印象を筆者は持っているのだが、こうして改めて見ると、やはりその機能を半ば無視したデザインがなによりも魅力的である。ついでに言ってしまうと、ダッシュボードの位置が高い一方でシートポジションは比較的低くされているので、前方も決して見やすくはない。おまけに斜め後方の視界はないに等しく、安全性に口うるさい今日ならば絶対に生まれてこなかったクーペなのだ。しかし、逆に言うなら、そんなことお構いなしに、あくまでデザイン重視でクルマが作れた時代だからこその“傑作”なのである。黒く塗り分けられたラムエアフードにスプリング式のフードピン、ボディサイドでアクセントを効かせるストライプにはmach1の文字、そしてフロントスポイラーと例のリアウイング……全てがスーパーカーERAの独特なムードを漂わせており、現在見ても実にキマっている。
取材車が搭載するエンジンは351cuinV8・4バレル。俗にクリーブランドと呼ばれるこのユニットは、吸気と排気のバルブを斜めにオフセットすることでバルブ径を大きくすることに成功したシリンダーヘッドのデザインが特徴だ。最高出力は246馬力。ちなみにこの年式のエンジンラインナップには、もうビッグブロックV8の姿はなかった。
搭載エンジンは最高出力246hpの351cuinV8・4バレル。同年のエンジン・バリエーションは250cuin直6、302cuinV8、そして取材車が搭載する仕様を含めて3種類が存在した351cuinV8で構成されていた。73年型マック1の標準は302で、351はオプションとなる。
くさび形のエアスクープが特徴的なNASAスクープ・フードは、71年型からマック1のアイデンティティとなったアイテム(これを選択しないモデルも存在する)。ブラックアウトされたヘッドライトベゼル、ハニカム状のグリルなどもマック1が標準採用するアイテムである。ラジエターグリルの中でポジションランプがこのように縦にレイアウトされるのが73年型ならではの特徴。71年と72年型ではこれが横型となり、グリル自体のデザインも異なっている。
フロントグリルに合わせて、リアのパネルもブラックのハニカム状を採用。これもマック1の標準仕様。大型のリア・ウイング・スポイラーは、単独のオプションアイテムだが、これを選択できたのはスポーツルーフとマック1だけだった。
より高く、より迫り出すようになったインパネ。フロント上がりを強く感じさせる加速姿勢とこのインテリアデザインがあいまって、この時代のマスタング独特の乗り味がもたらされる。リアシートがご覧のようにカーゴスペースに変化するのは、スポーツルーフの特徴だ。
撮影車のホイールはマック1のオリジナルではなく、シェルビー・マスタングのOEMを装着している。ちなみに73年型マック1のオリジナル・ホイールは、トリムリングにハブキャップを組み合わせたものだった。