A-cars Historic Car Archives #017
'69 1/2 Dodge Coronet Super Bee 440-6
'69 1/2年型ダッジ・コロネット・スーパービー・440-6
Text & Photo : よしおか和
(Mopar Classics/2009 Jan. Issue)
Jul. 19, 2024 Upload
ダッジ・コロネット・スーパービーは、いかにもMOPARらしいユニークなキャラクターが特徴であり、兄弟分のプリマス・ロードランナーとともに現在でもMOPARマッスルの代表選手として人気を博している。
そのデビューはモデルイヤーでいうところの68年。当時はまだマッスルカーという言葉もなく、ハイパフォーマンスなエンジンを搭載したスポーティモデルとして認識されていた。だが、この兄弟が発表される以前となると、正直なところダッジにもプリマスにも、もちろんクライスラーにも、若者の心をくすぐるようなスポーティカーは存在しなかったといっても過言ではない。たとえば、67年型のダッジ・コロネットR/Tやプリマス・ベルベデアGTXは標準で440cuinV8を搭載するホット・バージョンだったが、そのルックスはお世辞にもスポーティとかスタイリッシュというイメージではなかった。そして、Aボディのダッジ・ダートやプリマス・バリアント・バラクーダにしてみても、ライバルのマスタングやカマロと比べたら確実にアピールするものに不足が感じられた。
そこでBボディのモデルチェンジを機に追加されたのがこのスーパービーとロードランナーの兄弟車である。コミカルなキャラクターをそのままモデル名に採用し、そのカートゥーンのバッジやデカールでボディを飾るというアイデアは大成功だった。さらに標準で383cuinのビッグブロック・ハイパフォーマンスV8を備えながらもインテリア・トリムなどの仕様をプレーンにとどめ、快適装備は全てオプションとして設定。そのベースプライスを抑えたことで若者たちのハートを掴んだのである。
コロネット・スーパービーのレーシーなハチは、同時にダッジのハイパフォーマンス・モデルをトータルして象徴するキャラクターとしても使用され、ダートやチャージャー、そして後に登場するチャレンジャーにおいても、これをイメージした“バンブルビー・ストライプ”がそれぞれのリア部分に描かれて注目を集めた。そして、その元祖たるスーパービーでは、デビュー2年目にして極めてホットでレース色の強いモデルが市場投入された。それが今月クローズアップした69年型の440-6パックである。
当時、若者を中心としたカーGUYたちの関心はドラッグレースに向けられるケースが多かった。特にMOPARはNHRAのスーパーストック・クラスでの活躍が目覚ましかったので、多くのファンがそれを真似たのである(もっとも、時代が時代だけに、一般のユーザーがパフォーマンスしたのはレースウェイではなく深夜のストリートだったりもしたが……)。そして、スーパーストック・モデルとは称さないものの、極めてそれに近い性格で誕生したのがこの440-6パックだった。正確には69年の2月に追加されたモデルなので、69 1/2と表記するのが正しく、エンジンコードMで表わされる390hpの440cuinV8(翌70年型では同じ内容のエンジンがコードVで表わされる)はA12というオプションコードでパッケージ化されたものだった。このパッケージの内容は、独自のデザインによる巨大なファンクショナル・エアインスクープを備えたグラスファイバー製リフト・オフ・フード、グロスブラックにペイントされた15インチ・スチールホイール、そして3基の2バレル・キャブレターを備えた440cuinのビッグブロック・ハイパフォーマンスV8というものだった。
リフト・オフ・フードは俗に6パック・フードなどとも呼ばれるが、フラットブラックにペイントされ、その四隅がクロームのフードピンで固定されている様を目にするだけで、ワクワク、ドキドキしてしまう実にレーシーなアイテム。そしてなんとも素っ気ないホイールもまた、市販ドラッグレーサーを彷彿させるチャームポイントである。ただし、当時の一般ユーザーの視点で見たならば、これはあり得ないスタイルであり、「ホイールカバーが付いてないじゃないか!」とクレームが付いたとしても不思議ではない。それほどに一部のレース好きのユーザーだけにターゲットを絞ってこれほどに過激なモデルを作ってしまったところが、なんともMOPARらしいところなのである。ちなみにこの年のスーパービー440-6パックは、ハードトップが1010台、クーペが618台と僅かな生産台数にととまっており、撮影車のようなナンバーズ・マッチのオリジナルカーは、本国でも驚くほどのバリューが認められている。
コロネットR/Tのベースプライスは67年型で3199ドル(ハードトップ)、68年型では3353ドル。これに対してスーパービーは3027ドルと、グッと抑えた価格設定だった。これならばベースプライスが2500ドル前後のカマロやマスタングにハイパフォーマンス・モーターなどのオプションを追加した価格と比較検討する余地が充分にあったのだ。実際、このスーパービーとロードランナーは、クライスラーの当初計画以上のヒットを記録した。
独りでは外すことができず、たとえばディップスティックを抜き取ってオイル交換することすらできないのが、このリフト・オフ・フード。これはレース場のパドックなどでプラグを交換したり、点火タイミングを調整したりするのに適したデザインであり、なによりもレーシーなムードを盛り上げる効果の高いアイテムといえる。ただ、市販モデルとして考えるとやり過ぎ感は否めず、翌70年型のスーパービーでは440-6パック搭載モデルでもこのフードは採用されなくなった。
440-6パックは単に3×2バレルのホーリー製キャブレターを採用しているだけではなく、ピストンやコンロッドなどエンジン内部にも4バレル仕様の440マグナムとは異なるパーツを採用。ドラッグレース用にパワーアップを施すことを想定し、より耐久性を追求した仕様になっている。カタログデータは、圧縮比10.5対1、最高出力390hp@4700rpm、最大トルク490lbft@3200rpmという数字。バルブリフターはハイドラリック式。エンジンコードはこの69年型のみMで、70年型ではVとなる。
スーパービーのキャラクターをイメージしてデザインされたバンブルビー・ストライプ。しかし、このスーパービー以外でも、ダート、チャージャー、チャレンジャーといったダッジ各車のハイパフォーマンス・モデルたちはSCAT PACKとして括られ、例のハチのカートゥーンを描いた小さなステッカーと個性的なこのストライプが与えられた。
インテリアは最もベーシックなブラック・バイナルのフロント・ベンチシート仕様。727ATはコラムシフトとなる。ただし、インパネは最もスポーティなパッケージで、オイルプレッシャー・ゲージや時計を内蔵するタコメーターが与えられている。
取材車はポスト(センターピラー)を有する2ドア・クーペ。リア側のサイド・ウィンドウにレギュレターやレールを採用しない分だけコストダウンを果たしており、ハードトップよりもベースプライスが安く設定されていた。ただし、スーパーストック・モデルはこのタイプのボディをベースに生産されたケースが多いことから、今日MOPARマッスルカー・マニアはこの2ドア・クーペを喜ぶ傾向が強い。
ホイールカバーもセンターキャップも持たない、ただグロスブラックにペイントされただけの無骨な15インチ・スチールリムがA12(440-6パック・パッケージ)のオリジナル・アイテム。無骨ながらも、いかにも60年代のMOPARらしいレーシーなアイテムと言えよう。
フロントグリルとトランクリッドの隅にメタル製のバッジ、バンブルビー・ストライプの両サイドにデカール、さらに左右のクォーター・ウィンドウにSCAT PACKのデカールと、エクステリアには計6匹、このレーシーなハチの姿が描かれることになる。