A-cars Historic Car Archives #018

'59 Chevrolet Impala Sport Coupe

59年型シボレー・インパラ・スポーツクーペ


Text & Photo : よしおか和

(Chevy Classics/2007 Feb. Issue)

 Jul. 27, 2024 Upload

 

 50年代後半のAカーと言えば、そのオーバーデコレーションとも言える内外のデザインがなによりの特徴。仰々しいマスクや派手にそびえるテールフィンが当時の“強いアメリカ”を見事に表現していた。そしてもうひとつ興味深いのは、この時代のAカー(50年代から60年代半ばのモデルということになろうか)では、ほぼ毎年モデルチェンジが繰り返されていたという事実である。わが国の自動車のモデル変遷と比較して考えると、これはとても信じがたいことであり、それだけ新型車の開発コストも掛かっていたということにもなるが、一体どうしてそんなことが行われていたのだろうか?

 この時代のアメリカは高度経済成長の真っ只中にあり、早い話、裕福だったのである。つまり、毎年新車に入れ替えるユーザーがかなり存在したということでもあるのだ。そう考えると、頻繁なモデルチェンジもそこに需要があった結果であり、なるほどと頷ける。また、そこにアメリカ人の価値観というか、ものの見方が反映されている点がある。それは、毎年のようにクルマを買い替えても、多くの場合また同じ車種を選択するという傾向であり、実際にそれははっきりと窺えて面白い。日本人ならば豊かになって生活レベルが向上していくのに合わせて(実はそれ以上に)クルマのグレードをアップしていくパターンになろうが、この点についてアメリカ人の場合は余程保守的なのか、自分の収入や社会的地位に見合ったクルマだけが購入の対象になったようだ。さらに彼らの多くが親の代から引き継いだ贔屓ブランドというものをしっかりと持っていて、滅多なことではそれを変えようとはしない。フォード党はあくまでフォード、同様にシェビーはシェビーなのである。加えて、当時は同じブランドの中にまだいろいろなモデルが存在しておらず、たとえグレード別にシリーズが分けられていようとも、基本的にそれらは同じスタイルをしていたのだ。このようにトータルでその背景を考察していくと、先の疑問もすべて納得がいくというものである。

 随分と前置きが長くなってしまったが、今月ここにクローズアップしたのは59年型のシボレー・インパラ・2ドア・ハードトップ・スポーツクーペである。59年型というと、フィフティーズカー特有のオーバーデコレーションが最もエスカレートした時期であり、シボレーに関しても例外ではない。ギラギラのクロームもビッグスケールのテールフィンも一段と派手に、そして強くアピールしている。それにより過去のモデルが持っていたシボレーならではの柔和さがやや失われた感もあるが、それでも共通したブランドイメージというものをしっかりと守っていて、シボレー・ユーザーはクルマを買い替えてもまたシボレーという例のセオリーを改めて納得させられる。

 

 

 インパラは58年から登場したスポーティかつデラックスなモデルであり、シボレー・パッセンジャーカーの最上級シリーズとなる。59年型シボレーのラインナップを見ると、よりベーシックな方からビスケイン、ベルエア、インパラという順番になるが、先ほど記したように、それらは全て基本的には同じサイズで同じデザインのクルマである。それでもエクステリアのモールディングやインテリアのトリムなどにその差がはっきりと示されているのと、インパラには2ドア・セダンが存在せず、代わりに下ふたつのシリーズには設定のないコンバーチブルが用意されていた。

 さて、59年型インパラと言えば、なによりの特徴はそのテールフィンだろう。センターから左右に、まるで鳥が翼を広げたようなカタチで大きく迫り出し、お約束通りその先端は鋭く尖っている。また、ボディサイドにフィニッシュするラインもエッジがシャープに効いていて、そのリアビューをこの上なく引き締めている。取材車は2ドア・クーペであり、湾曲したリアガラスと緩やかな曲線を描くクォーターピラーが作り出すなんともいえない丸味がその鋭い直線と対照的かつ絶妙なる調和を見せていて、数多いフィフティーズAカーのデザインの中でも屈指の美しさを表していると思う。さらに、このオリジナルのツートーンカラーがそれを強調していて、見ているだけでうっとりとさせられてしまう。まさにアーティスティックというべき造形だが、これは間違いなくこの時代のアメリカだからこそ表現できたものなのである。

 大きく伸びたリアのオーバーハングもまた魅力のひとつ。ホイールベースは119インチ(約3023mm)で全長が210.9インチ(約5357mm)というフルサイズだからこそ描き出せたダイナミックなフォルムだ(この時代には比較する他のサイズのモデルが存在しなかったので“フルサイズ”という呼び方が適当ではないかもしれないが……)。そして、インパラならではの太いクロームのモールディングが「これでもか」といわんばかりのアクセントを効かせているのである。

 もちろん、リアセッション以外にも特筆すべき優美なデザインは随所に認められる。フロントマスク然り、Aピラーとベンチレーテッド・ウィンドウが織りなす造形然り。ただ、これ以上書き続けてしまうとスペースが足りなくなってしまうので、あとは写真でたっぷりと実感していただくことにしよう。ちなみに、取材車はフルオリジナル・コンディションで、エクステリアのみならず、インテリアも素晴らしく美しい。そして、大きなフードの下には283cuinのオリジナル・パワーユニットを搭載しているところがまたニクい。巷ではこの時代のエンジンを実用とするのは現実的ではないという評判もあるようだが、きちんと整備されたヘルシーな状態ならば、どこへでも心配なく走っていける。それをこのインパラが実証していると言えよう。クラシックカーとしてのバリューも年々高騰し、益々貴重な存在となっているだけに、こういう#1コンディションカーが日本で元気よく活躍している姿を心から嬉しく思い、興奮の冷めやらぬうちにこの日の撮影を終えたのだった。

 


大きなリアのオーバーハングとそこに長く鋭くそびえるテールフィン。そしてバブルトップと形容されるガラス面積が大きく丸味を帯びたクーペならではのルーフラインが乗り、なんともアーティスティックな眺めを生み出している。インパラ独特のサイドモールディングもその演出に一役買っている。


エンジンはオリジナルの283cuinV8を搭載。補器類もひととおりオリジナルを保っている美しいコンパートメントは見事としか言いようがない。ボア3.875×ストローク3.000インチ、圧縮比8.5:1で最高出力185hp@4600rpmを発生するユニットは、ヘルシーならば今日でも何の問題もなく現役として活躍できる。


ラップアラウンド・ウインドシールドとベンチレーテッド・ウィンドウが作り出すこの曲線もフィフティーズ・アメリカンならではのデザイン。シボレーはこの造形を62年型まで継承した。


58年型から4灯式ヘッドライトが採用されたことで、若干イメージチェンジを果たした感のあるシボレーだが、59年型ではそのライトがラジエターグリルと同じ高さに収まり、一段と現代的な印象を強くしている。それでも以前からの“シボレーらしさ”が失われていないのは、まさにデザインの妙というヤツだろう。


テールフィン同様、強烈な個性を表現しているのがこのテールレンズ。これもまた59年型だけの独特な造形だが、まるで生き物のように豊かな表情を見せてくれる。


ボディカラーとコーディネイトされたグリーンのオリジナル・インテリア。まだパッドが採用されていないダッシュは中央から上と下とで濃淡の差がつけられており、シートやドアトリムはパステルトーンでフィニッシュ。このデザインといいカラーリングといい、やはりフィフティーズのテイストは濃厚だ。また、この時代にしてすでにパワーウィンドウが装備されているところにも驚かされる。


太いホワイトリボンのバイアスタイヤはフィフティーズ・Aカーのシンボルともいえる。オリジナルのタイヤサイズは7.50×14となる。