A-cars Historic Car Archives #020
'78 Lincoln Continental MarkV Cartier Edition
78年型リンカーン・コンチネンタル・マークV・カルティエ・エディション
Text & Photo : よしおか和
(The Final Full Sized Coupe/2008 Nov. Issue)
Aug. 2, 2024 Upload
FoMoCoを代表する高級ブランド、リンカーン。その中でもラグジュアリー・クーペといえばコンチネンタルのマーク・シリーズである。68年型のマークⅢにはじまり、72年型からはマークⅣ、そして77年型では基本的なイメージを変えることなく直線を多用してスタイリッシュになったマークⅤへと発展した。しかし、序章でも触れたように、マークⅤへのモデルチェンジ時点でもダウンサイジングはなされず、逆に僅かながらもボディサイズが拡大されていたのである。その理由として考えられるのは、まずFoMoCoの、特にリンカーンの体質である。いや、より正確に記すならばリンカーンを愛好するユーザーの体質というべきだろうか。リンカーンはアメリカ人の高所得者層の中でも特に保守的な層から支持されているブランドだけに、ここでユーザーの先入観に逆らうことや、伝統的なカタチを崩すことはあまりにも危険な冒険であり、それにトライすることができなかったのである。
結局、モデル史上において最もビッグなラグジュアリー・クーペとなったマークⅤに対して、FoMoCoはダウンサイジングとは別の形で省エネ対策を施す腹を決めた。それはボディの軽量化の代わりにエンジンを小さくし、パワーを犠牲にしてでも経済性を向上させるという手法だった。
マークⅤではマークⅣから継承した460cuinV8をオプショナル・パワーユニットへと格上げし、ボア4.00×ストローク4.00インチの400cuin(6.6リットル)V8を標準搭載した。ちなみにこのユニットは圧縮比を8.0対1にとどめ、モータークラフト製の可変ベンチュリー式2バレル・キャブレターを採用。最高出力179hp@4000rpm、最大トルク329lbft@1600rpmという少々寂しい数字でスタートし、翌78年型ではより一層厳しい燃費規制が実施されたことから、最高出力166hp@3800rpm、最大トルク319lbft@1800rpmとさらにカタログ数値をダウンさせている。
だが、それでも愛好者たちがそんなパワー不足のマークⅤに失望することはなかった。もともと彼らがスピードやパワーを優先するタイプの層ではないことに加え、スタイリッシュかつゴージャスに変身を遂げたスペシャリティ・クーペの内容が充分満足できるものだったからである。さらに彼らの高級志向を煽り、満足させたのが、デザイナーズ・シリーズの存在だった。これはマークⅣの時代に試みられたスペシャル・バージョンで、エクステリアやインテリアのカラーリングやディテーリングを著名なデザイナーに依頼した、コラボレーション・モデルである。そして、このモデルはシリーズと称されるように、ビル・ブラス、ジバンシー、カルティエ、エミリオ・プッチという4ブランドによって手掛けられ、結果として4モデルの競作が実現したのである。
それぞれのデザイナーズ・モデル(生産台数が限定されたことからデザイナーズ・エディションとも呼ばれた)は、モデルイヤーによってその仕様が異なったりもしたが、撮影車は78年型のカルティエ・エディションである。ライト・シャンパンと称する淡黄系のメタリックカラーにペイントされたボディに、同色系のランドゥトップを備え、これまた同色系のモールディングでボディサイドを引き締めている。インテリアは上品なカラー・コーディネイトを施したファブリックでまとめ、全体的にアダルトでお洒落なイメージを作り上げている。ヨーロッパのセンスが保守的なアメリカン・デザインとこれ以上ないほど見事に融合していることも注目に値するが、ちょうどこの時代にアメリカの保守層たちがヨーロッピアン・ブランドに強く惹かれていた事実を示すという意味でも興味深い1台である。
ホイールベースは120.4インチ(約3058㎜)。全長×全幅×全高は230.3×79.7×52.9インチ(約5850×2024×1344㎜)。マークⅤのファクトリー・プライスは1万2099ドルで、78年型のトータル生産台数は7万2602台。
エンジンはボア4.00×ストローク4.00インチの400cuin(6.6リットル)V8。圧縮比は8.0:1で、最高出力は166hp@3800rpm、最大トルク319lbft@1800rpm。キャブレターはモータークラフト製の2バレルで、可変ベンチュリータイプ。
伝統のウォーターフォール・デザインを継承したラジエター・グリル、コンシールド・ヘッドライト、コンチネンタル・キットの名残りを感じさせるトランクリッド……その全てがリンカーン・コンチネンタルを象徴するアイテムといえる。
ライト・シャンパンのボディにカラーコーディネイトされたランドゥ・トップ。そのクォーター・ピラー部分にはコンチネンタルの特徴のひとつであるオペラ・ウィンドウが与えられ、そのガラスにはリンカーンのマークとともにCartierの文字が記されている。
インテリアはカルティエらしくシックにカラーコーディネイトされている。ファブリック素地のセパレート・ベンチシートは座り心地もよく、リンカーンならではのテイストを堪能させてくれる。
ウッドグレインパネルにシルバーの文字板を採用したスピードメーターやセレクターのインジケーターが高級感を演出するインパネ。エレクトリック・クロックはもちろんカルティエ製だが、これはこのカルティエ・エディションに限ったことではなく、全てのマークⅤにカルティエのクロックが採用されていた。
アルミホイールはマークⅤの純正品。標準ではミシュランの225×15タイヤが組み合わされた。