A-cars Historic Car Archives #026

'66 Shelby G.T.350

66年型シェルビーG.T.350


Text & Photo : よしおか和

(Shelby x Shelby/2008 Jul. Issue)

 Sep. 20, 024 Upload

 

 1964年4月にデビューしたフォード・マスタングは空前の大ヒットとなり、瞬く間に驚異的な生産台数を記録した。しかし、その産みの親であるアイアコッカは決して満足していなかった。マスタングがスポーティカーである以上、モータースポーツシーンにおける実績がなければ真の価値がないと考えたからである。そんな彼がロードレース参戦用のスペシャル・マスタングを作り上げるプロジェクトを依頼した先は、当時フォード製V8エンジンを搭載したACコブラでその名を世界中に知らしめていたキャロル・シェルビーであり、彼の率いるシェルビー・アメリカンだった。具体的なレースの舞台として選ばれたのはSCCAの主催するBプロダクション。コルベットやジャガーEタイプ、フェラーリ250GT、サンビームタイガーといったスポーツカーたちを相手に良い成績を残せば、より大きな宣伝効果が得られるからである。

 さて、ここで必要になってくるのが、SCCAの規定に合わせてホモロゲーションを取得することある。当時の規定生産台数は100台だけだったが、フォードとシェルビーに与えられた時間は限られていた。実際には僅か3カ月でそれを達成しなければならなかったのである。

 カリフォルニア州ベニスにあるシェルビー・アメリカンのファクトリーにテストカーが持ち込まれて、“コブラ・マスタング・プロジェクト”がスタートしたのは64年9月のこと。ベース車両は、翌10月に追加される予定の新型ファストバックであり、SCCAのルールに合わせてこれを2シーター化。さらにサスペンションをモディファイし、よりロードレースに適応させた仕様とされた。ただ、量産を前提としていただけに生産コストを無視するわけにはいかず、プロジェクトは極力フォードのOEMパーツを流用する形で進められた。エンジンはハイパフォーマンス仕様の289cuinV8(Kコード)をベースに、主に吸排気系の変更によってパワーアップされ、トランスミッションはボルグワーナーT10・クロスレシオ4MT、そしてデトロイトロッカーを組み込んだ3.89ギアの9インチ・デファレンシャルがセットされた。ブレーキはフロントにケルシーヘイズ製4ポット・キャリパーと11.375インチ・ベンチレーテッド・ディスク、リアにはステーションワゴン用の10インチ・ドラムとメタリック強化ライニングを採用、といった具合である。

 こうして初年度(65年型)のシェルビーGT350は、1月1日までに規定の100台をクリア。最終的には実際にレース参戦を目的とした純レーシング・モデル46台(内9台はドラッグレーサーだった)を含む562台が生産され、そのすべてがウィンブルドン・ホワイトのボディにブルーのレーシング・ストライプを描き、インテリアはブラックで統一されていた。そしてレースの成績はというと、まず全米を6つのエリアに分けた地区シリーズでは5地域でチャンピオンとなり、さらにナショナル・チャンピオンを決定するARRCにおいてシェルビー・アメリカンのワークスチームが優勝。加えて、2位から10位までに6台のGT350が入るという上位独占劇を演じたのだった。

 

 

 こうしてアイアコッカの望みは達成され、マスタングはモータースポーツ・ファンからも高く評価されるようになった。それと同時にホモロゲーションカーであるシェルビーGT350の人気も急上昇したが、実際にはいくつかの問題があった。

 65年型GT350の市販モデルはレースカーのベースとしては実に優秀だったが、必ずしもこれを購入したユーザーたちがそういうセンスを持ち合わせていたわけではない。GT350はオプションのアルミホイールを選択するとスタンダードなマスタングよりも約2000ドル高くなり、オプションレスのコルベットとほぼ同価格だった。しかも、生産台数が極端に少ないわけであり、“スペシャルなGTカー”というイメージを抱いてこれを手に入れた人間が少なくなかったことも容易に推察できる。ただそうなると、たとえばパワーステアリングやエアコンがないこと、うるさいエキゾーストサウンド、曲がり角のたびにノイズを奏でるデトロイトロッカーなどに対してネガティブな評価が下されるケースも少なからず出てくることになる。防音材を省いたボディ然り、ハード過ぎるサスペンション然り、そしてトランクに積まれたバッテリー然り。スペシャルなGTカーというイメージを抱くユーザーたちにとって、それらは全て喜ばしくない要素だったのである。

 そこで翌66年型のGT350は、レースカーとしてではなく、あくまでストリートカーとしての意味において改良が施された。デトロイトロッカーとKONI製アジャスタブル・ショックアブソーバーは標準からオプションへと変わり、スペアタイヤおよびバッテリーの搭載位置も変更、折りたたみ式のリアシートやエアコン、ラジオなどが新たにオプションリストに加わり、ATさえも選択可能になったのだ。さらに、ホワイトのみだったボディカラーにも4色が追加され、ホイールのバリエーションも増した。これらの仕様変更に加えてレースでの活躍が大きな反響を呼び、結果として66年型は前年よりも大幅増となる2380台が生産されている。なお、このうちの1000台はレンタカー会社であるハーツからの注文であり、“レンタ・レースカー”と銘打って全米の大都市の営業所に用意されたこれらは、シェルビーGT350Hとネーミングされて区別されていた。

 

ヒストリックカー・アーカイブ Vol.27に続きます)

 


キャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカンがSCCAのBプロダクション・レースに参戦すべくモディファイを施したG.T.350は、基本的にはマスタング・ファストバックのフォルムを保ちながらも独自のスタイルを作り出していた。外観ではエアインダクト付きのFRPフードに、デコレーションを廃したラジエターグリル、クォーターのサイドスクープ、独自のサイドミラーやホイール、フィラーキャップ、そしてエンブレム類などがその特徴といえる。中でもレーシング・ストライプは誰もがひと目でフォード・マスタングとの違いを認識できる部分。65年型ではボディカラーがウィンブルドン・ホワイトでストライプはネイビーブルーに限られていたが、この66年型では新たに4色のボディカラーが追加された。取材車はサファイアブルーにホワイトのストライプが美しいコントラストを描いている。


シェルビーG.T.のサスペンションはフロントのアッパーAアームが改良され、その取り付け位置がマスタングよりも約1インチ下げられ、スウェイバーも1インチ径に増強された。同様に、コイルスプリングおよびショックアブソーバーも強化パーツへと変更されている。


5スポーク・タイプの15×6インチ・アルミホイールは、65年型から継承されたシェルビーG.T.独自のアイテムであり、当時クレーガーに特注して作られたもの。なお、この66年型から新しくデザインされた14インチのアルミ合金製ホイールと、スチール製のマグナム500ホイールも追加されている。


クォーターの空調用ルーバーが廃されて、ポリカーボネイト製のウィンドウへと変更された点もこの66年型におけるトピックのひとつ。


搭載エンジンは、フォード・マスタング用のハイパフォーマンス版289cuinV8(エンジンコード=K)をベースに、シェルビーによってモディファイされたもの。圧縮比を11.5:1まで上げ、キャストアルミ製のハイライズ・インテーク・マニフォールドとホーリー製の715cfm4バレル・キャブレターをセットし、エキゾースト系ではTri-Yチューブ・ヘダースにストレート式マフラーを組み合わせた。これらの結果、パワー及びトルク数値は306hp@6000rpm、326lbft@4000rpmまで上昇している。なお、取材車は日本に輸入された後にオーナーの元で点火系等に手が加えられており、さらなるパワーアップが図られている。また、その際に大型のディストリビュータを導入した関係で、左右のインナーフェンダーを結ぶ強化ロッドが、オリジナルの真っ直ぐなモンテカルロバーから曲がりのあるタイプのものへと変更されている。


劣化した表面が年代を感じさせるが、このTri-Yチューブ・ヘダースこそがシェルビーG.T.350ならではのオリジナル・アイテム。65年型と66年型に限り標準で装備された。


容量をスタンダードの5.7クォートから6.5クォートまでアップさせたシェルビー特製のオイルパン。フィン付きのキャストアルミ製で、内部にはオイルの偏りを防ぐインナーバッフルを備えている。


ラジエターは市販モデルにおいてはマスタングと変わりなく、一見するとその小さめのサイズに少々不安も感じられるが、実際は「パワステもエアコンもない仕様のため、オーバーヒートの心配は一切ない」とオーナー。


インテリアでは独自のウッドリム・ステアリングホイール、ダッシュ中央に追加されたタコメーター、そして3インチ幅となるレイ・ブラウン製レース用シートベルト(2点式)などが特徴となる。ちなみに、ステアリング・ギア・レシオはマスタングの22:1から19:1へと変更。ピットマンアームおよびアイドラアームのモディファイと併せて、ロック・トゥ・ロックはスタンダードのマスタングの5から、3.75へと大きく変化している。


リアシートを備えない2シーター仕様がG.T.350のオリジナル・デザイン。ただしここにスペアタイヤがセットされたのは本来65年型だけであり、この66年型からはトランクルームへと移動された。これは、65年型ではトランクルームにレイアウトされていたバッテリーがこの年からエンジンルームに移動したからである。それに伴ってこの66型からは、フォード・マスタングと同様に折りたたみ式のリアシートがオプションリストに加えられている。なお、取材車はロールバーをセットしているが、これはこの車両が実際にレースに出場していたからと思われ、66年型のG.T.350においてオリジナルでこれを備える車両は1台も存在していなかった。


デファレンシャルはフォード9。デビューイヤーでは標準装備だったデトロイトロッカーは、この66年型からオプション扱いとなった。リアサスペンションでは、トラクションバーとアクスル・リミッティング・ケーブルがセットされ、リーフ・スプリングおよびショックアブソーバーはレース用の強化パーツへと変更されている。ちなみに、G.T.350のデビュー当初、シュックアブソーバーにはKONI製のアジャスタブル・タイプが標準採用されていたが、66年型からはオプション扱いに変更された。当たり前だが、取材車のショックは現在までに何度も交換されており、アフターマーケット製パーツが備わっている。


マスタングではラジエター・グリルのセンターに飾られた野生馬のオーナメントだが、シェルビーG.T.では小さなエンブレムに変更され、このようにドライバーサイドに寄った位置に備わる。



この66年型からは、ファストバック以外にもコンバーチブルのシェルビーG.T.が生産された。ちなみに66年型シェルビーG.T.350におけるコンバーチブルの製造台数は僅かに6台とされる。