A-cars Historic Car Archives #031
'71 Plymouth Barracuda 'Cuda 426HEMI
71年型プリマス・バラクーダ・クーダ426HEMI
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/2007 Jul. Issue)
Nov. 1, 2024 Upload
1971年モデルイヤー。プリマスはそれぞれバージョンが異なる6種類のバラクーダをリリースした。その内訳は、バラクーダ・クーペ、ハードトップ、コンバーチブル、そしてオーバーヘッド・コンソールが付いたグランクーペ、さらにパフォーマンス・バージョンであるクーダおよびクーダ・コンバーチブルである。搭載エンジンも豊富な選択肢が用意され、ベースの225cuin直列6気筒、V8では318、340、383、440cuin(4バレル&6バレル)というリストに加えて、モンスター、426HEMIまでラインナップされていた。
つまり、パフォーマンス・モデルであるクーダに425馬力を発揮する426HEMIのオプションをプラスすると、最強のEボディ、HEMIクーダが完成したということになる。だが、このメニューを実現させるにはかなりのコストを要した。426HEMIエンジン&ヘビーデューティ・トランスミッションのオプションだけでも、車両代金(クーダ・ハードトップは3134ドル)に加えて1113ドルが必要となり、当時なかなか手を出し難い金額だったことも事実なのである。HEMIクーダはAT、MTに関わらず、当時のプリマスEボディのフラッグシップ的存在だったのだ。
HEMIというエンジンは、独自のデザインを持つシリンダーヘッドの効果によって非常に大きなパワーを発するパワー・プラントだ。そのヘッドには絶妙なデザインの燃焼室に加え、他とは異なる独特のバルブ・アングルが採用されていた。その上、独自のインテーク・ポート形状を採用することで、混合気を効率的かつダイレクトにインテーク・バルブへと送り込んでいた。細かく説明すると、まずインテーク側のバルブ・ヘッド径は2.25インチ。これが中心位置から35度傾いた状態でセットされた。エキゾースト・バルブはヘッド径が1.94インチで、こちらには23度の角度が付けられていた。
そして、外見におけるHEMIの最大の特徴ともいえるのがスパーク・プラグのポジションだ。通常のV8エンジンの場合、プラグはヘッドの側面から刺さる形なのだが、HEMIの場合はヘッド中央に上側から刺さる形で配置されている。このプラグ位置(=点火位置)と半球形の燃焼室により、ほかのエンジンとは比べ物にならない燃焼効率を実現しているのだ。71年バージョンの426HEMIのコンプレッション・レシオは10.2:1。鍛造クランクシャフトや特殊表面加工が施されたピストンを組み込んだこのエンジンは、完全なコンペティション・スペックといえるものだ。
続いてHEMIクーダとはどのようなモデルなのかを説明をしよう。大径トーション・バー&強化リーフ・スプリングを含むエクストラ・ヘビーデューティ・サスペンション・パッケージ(S15)、11インチ・ドラムブレーキ(厚みは前3インチ、後2.5インチ)、ヘビーデューティ・アクスル、15×7ホイール、そしてあの威圧的なシェイカー・フード。これらがすべてHEMIクーダには標準で装備された。6分割フロントグリル&4灯ヘッドライト、リバース・ランプがセパレートにセットされたテールライトなどは71年型のみの特徴。そして、フロントフェンダーにおごられたクローム・ルーバーは、そのマシンがバラクーダではなくクーダである証である。
今回ご紹介する車両は、まさにその71年型HEMIクーダ。当時からの書類がすべて揃っており、もともとはBentley Asherという人物が1971年8月31日にイリノイ州クリスタル・レイクで購入したということが判明している。それも、クライスラー・クレジットで4209.37ドルのローンを組んだという事まで……。
オリジナル・カラーはブラックで、快適性を考慮したオプション類は付けられていない。パフォーマンス・マシンに軟弱なオプションは無用なのだ、と言わんばかりの仕様である。そして、フェンダー・タグとブロードキャスト・シートを解読していくことで、さらにこの車両の詳細が分かってくる。購入時にファクトリーで搭載された装備は、4スピード・マニュアル・トランスミッション(D21)、パワーブレーキ(B51)、パワーステアリング(S77)、ラリー・ダッシュ・クラスター(A62)、リムブロータイプの3スポーク・ステアリングホイール(S83)、ラリーホイール(W21)、3.54ファイナルギアのトラック・パッケージ(A33)、ティントガラス(G11)、クローム・ドアミラー(G33)、フードピン(J45)、そして間欠式ワイパー(J25)というもの。このリストを見る限りさほど特別なパーツは見受けられないが、見逃せないのは、もともとこのモデルが“ノー・ラジオ”仕様だということである。さらにペイントについては、サンディング&バフ掛けされたことを意味する“Show Car Finish”の欄がチェックされていない。ということはつまり、このHEMIクーダはペイントのバフ掛けさえもされない、スパルタンな状態で納車されたということである。
現在このレア・パフォーマンスカーはアリゾナ州メサに住むアル・ジェンセン氏の元に置かれている。このジェンセン氏は、アメリカ国内でも筋金入りのMOPARエンスージアストとして知られている人物である。
彼はこの71年型HEMIクーダをフルレストアされた状態で手に入れたものの、その仕上がりに納得できず、このマシンを“完璧”なオリジナルの状態にすべくレストアラーを探した。そして、巡り合ったのが同じアリゾナ州でクオリティ・マッスルカー・レストレーションズというショップを主宰するワード・ギャッパ氏だった。ギャッパ氏の隙のないレストレーションは全米でも右に出る者はいないという評価を得ており、このクーダにおいても評判通りの仕事を果たしたのである。
ホース類からボルト&クリップ類、そしてエキゾーストの遮熱版に至るまで、当時クライスラーが採用したパーツの新品が装着されている。ただし、今現在このマシンが備えているビルボードストライプやリアスポイラーは、本来この車両がオリジナルで備えていたものではない。このことをオーナーのジェンセン氏に尋ねてみると「別にオプション・パーツは嫌いじゃないよ。特に、当時もしコイツを買ったのが自分で、選択していたであろうオプションならね」と返ってきた。さらに「取り外せばいつでも100%のオリジナルに戻せるじゃないか」とも。もちろん、後付けされたオプションといえども、これらは当時のディーラーでクーダ用として用意されていた“リアル”なオプションである。
「このクーダは自分のコレクションのフラッグシップなんだ」と話してくれたジェンセン氏は、所有する数多くのMOPARの中でも、このパーフェクトにレストアされた実走2万5000マイルのHEMIクーダがいちばんのお気に入り。1971年に出荷された4スピードのハードトップ・クーダが僅か59台ということを考えても、氏の気持ちはよく理解できる。
新車時にタイムスリップしたかのようなエンジンルーム。巨大なシェイカーの下にはツイン4バレルの426HEMIが備わる。ホース類も新車時に付いていたものとまったく同じものに交換されている。なお、70AのMOPARバッテリーはリプロダクションされたものだ。
15×7のラリーホイールの裏側が赤く見えるが、ドラムブレーキ装備車はこれがオリジナルの状態である。
ファクトリーで使用されたものと同じペイントで仕上げられたフロント・サスペンション。恐らく、71年にファクトリーから出てきたばかりのクーダの下に潜っても、全く同じ光景が見られただろう。
ファクトリー・スペックを忠実に再現しているLSK社のリーフスプリング。これはギャッパ氏が用意したレストレーション・パーツのひとつだ。71年型HEMIクーダに標準でセットアップされたS15・エクストラ・ヘビーデューティ・サスペンションでは、左リーフは5枚+セミリーフ2枚、右リーフは6枚となっていた。
巨大なDANA60ディファレンシャル。当時のマーキングまで含めて完璧な状態が再現されている。このマーキングは、ファクトリーでその内容を識別するために与えられたもの。ちなみに現在ではバーコードに置き換えられている。
オーナーであるジェンセン氏の好みにより追加されたリアスポイラー。後付けということになるが、もちろんこれも当時用意されていたオプション(コードJ81)のひとつであり、当時のオリジナル・パーツが装着されている。さらにこのスポイラーを固定しているボルトまでもが当時のオリジナルパーツである。
71年型のみの特徴でもあるフェンダー・ルーバーはNON-FUNCTIONAL、つまり機能しないものだった。
丸目4灯のヘッドライトに独特のフロントグリルを組み合わせたこのデザインも71年型ならではのもの。当時は“CHEESE-GRATER GRILLE”(チーズおろし器グリル)などと呼ばれたりもした。
ボディサイドを飾るビルボード・ストライプは71年型だけに用意されたオプションだが、実は派手過ぎるという理由から当時はあまり人気がなかった。それでも、現在こうして見ると新鮮に映るのだから不思議なものだ。