A-cars Historic Car Archives #025

'70 Chevrolet Chevelle SS454 LS6 Convertible

70年型シボレー・シェベルSS454 LS6・コンバーチブル


Text & Photo : James Maxwell

(Muscle Car Review/2007 Mar. Issue)

 Sep. 13, 2024 Upload

 

 アクセルひと踏みで450馬力というパワーを吐き出すシボレーのLS6は、史上最強の市販車用エンジンといっても過言ではなかった。初投入となった70年モデルイヤーにこの454cuinV8・LS6が搭載されたのはシェベル・シリーズ……つまりシェベル・クーペ、シェベル・コンバーチブル、そしてエルカミーノの3モデルのみである。そして、このLS6をリリースしたことにより、シボレーは当時のパワーウォーズにおいて頂点に立つことになった。ミッドサイズのシェベルにこれだけのハイパワー・エンジンを搭載した理由はただひとつ、当時各社が凌ぎを削ったパワー競争を制することだった。だからこそSS454は、他のどんなマッスルカーよりもリアルなマッスルカーとして現在まで語り継がれる存在になったのである。

 1960年代にレースでの勝利を目的に開発されたフォード427サンダーボルトやハースト426HEMIダート&バラクーダなどとは違い、LS6シェベルは完全にストリート・リーガルとしてリリースされたものだ。にも関わらず、クォーターマイルを108mph/13.4秒で走り切るポテンシャルを持っていた。それもストックの14インチタイヤで、である。

 RPO=レギュラー・プロダクション・オプションとしてリリースされたLS6だが、その内部には市販エンジンとは思えないスペックのパーツが備わっていた。4ボルトメインのシリンダーブロックにドーム型鍛造ピストンが組み込まれ、クランクシャフトはクロス・ドリルドされた5130鍛造スチール製、コンロッドにはマグナフラックス加工が施されていた。圧縮比は11.25対1である。

 長方形ポートを持つキャスト製シリンダーヘッドにセットされたカムシャフトはもちろんハイパフォーマンス・タイプ。当然バルブも大径のものが使用されていた。アルミ製インテークマニフォールドの上に載ったのはHolly製の780cfmダブルポンパー・キャブレターだった。

 こうしたアグレッシブなインターナル・パーツやインテーク・システムの効果により、ファクトリーデータにおいて最高出力450hp@5600rpm、最大トルク500lbft@3200rpmを実現したのである。この数字を見れば、1970年のRPO LS6が、市販エンジンながらも「ピュア・パフォーマンス」と呼ばれた理由がわかるだろう。

 当時、オプショナル・エンジンであったLS6を搭載したシェベルは4475台が製造されたという記録が残っている。そして、そのほとんどはハード・トップであり、LS6を積むコンバーチブルとエル・カミーノは限りなく「レア」な存在ということになる。

 

 

 今回紹介している70年型シェベル・コンバーチブルはそんなレアな1台である。さらにいえば、コレクターに“レア中のレア”として知られるブラック&ホワイトというカラーリングのコンバーチブルだ。美しくレストアされたこのシェベルは、ターボハイドラマチック・トランスミッションをはじめ、パワーウィンドウ、4.10リアエンド、ポジトラクション、チルトステアリングと、数多くのオプションを選択している個体。エンジンを始動させてみれば、ソリッド・リフター仕様のビッグ・ブロックが最高のサウンドを奏でてくれる。撮影時にオーナーが見せてくれたバーンナウトのサウンドなどはまさに音楽そのもので、マッスルカー・フリークにとっては涙モノの瞬間だった。

 LS6を搭載したシェベル・コンバーチブルといえば、ドラッグレースのスーパーストック(SS/EA)で常勝を誇ったブリッグス・シボレーの“Truppi Kling Competition”が伝説的に語られる存在である。レイ・アレンがステアリングを握ったそのマシンの最高タイムは11.05秒であり、コンスタントにそれに近いタイムを叩き出す実力を備えていた。

 もちろん、ストックの状態でそこまでのタイムが出せる訳はなく、レースマシンにはそれなりのスープアップが施されていた。フロントには減衰力を極端に落としたKONIのショックにV6シェベル・ワゴン用のスプリング、リアにはCure Ride“C”スプリングを採用。さらに5.13リアエンド、そしてM&Hのソフトコンパウンド・スリック。これらのアプリケーションにより、まずは最高のフロント・リフト&リア・トラクションを手に入れたのである。

 エンジンの方は0.03オーバーボアのTRWピストン、General Kineticsのハイパフォーマンス・カムシャフト(リフト0.6インチ、デュレーション309/318度)、Craneのローラー・ロッカーという仕様。その他、加工したコルベット用デストリビューターやCarterの電磁フューエル・ポンプ、そしてHookerのへダースなどが用いられていた。

 このほか、トランスミッションもレース用となり、Vitar Engineeringによりチューンされた9インチ・コンバーターが採用されていた。トランスミッションに関しては面白いポイントがATFにあり、GM製のデキシロン(ATF)とフォード製ATFをブレンドして使用していたという。そんな裏技も効果を発揮し、このシェベルは常にNHRAでトップの座を勝ち取っていたのである。

 そのシェベルは昨年(編集部注・2006年)アリゾナで開催されたバレット・ジャクソン・オークションに出品されて、実に100万ドル以上の価格で落札されている。だが、実際にレイ・アレンがドライブしていたLS6シェベルというヒストリーを理解する者はこの落札価格にあまり驚かなかったようだ。LS6を搭載したシェベル・コンバーチブルが激レアモデルであり、加えてそれだけのレース・ヒストリーを背負っている個体ならば相応しい値段と判断したのだろう。高騰が続くコレクタブルカー・マーケットの現状を考えれば……確かにこの価格にも納得せざるを得ないのである。

 


LS6はRPOコードZ15のSS454エクイップメントと組み合わされてオーダーされ、70モデルイヤーにおいて4475台のSS454 LS6がリリースされた。LS6ユニットに関する主な解説は本文に記してあるが、さらに詳細なデータを付け足すと、メカニカル・カムシャフトはリフトが0.5197インチ、デュレーションが316/302度。バルブ径はインテークが2.19インチで、エキゾーストが1.88インチとなっている。ハイライズ・タイプのアルミ製インテークはWinters Foundry製で、その上にはHolly780cfmダブルポンパー・キャブレターが載る。これにSSが標準装備するカウルインダクション・フードが組み合わされ、強制的にフレッシュエアを取り込むシステムになっている。なお、細心の注意を払ってレストアされた取材車はホース・クランプまで当時のオリジナルだ。


SSのキャラクターを象徴するかのようなスポーツ・ストライプだが、これはRPOコードD88の独立したオプション。6万2000台を超える台数が製造された70年型シェベルのうち、4万台近くがこのオプションを選択している。


70年型シェベルに用意された454cuinV8は、360馬力のLS5と、450馬力のLS6の2種類が存在した。つまり、このSS454のエンブレムはLS6搭載車を示すものではない。ただ、マッスルカーに造詣の深い方ならエンジン音からLS5とLS6を判別できるだろう。LS6ならば、フード下からソリッド・リフターのサウンドが聞こえてくるからだ。


インテリア・トリム・コードは755、ブラック・バイナルのベンチシート。ファクトリー・オプションのチルト・ステアリング(RPOコードN33)とステレオ・ラジオ(同UM2)を選択しているのが取材車の特徴。なお、70年型シェベル・コンバーチブルにはブラック(コードBB)とホワイト(同AA)のソフトトップが用意されていたが、取材車はブラックを選択している。


上の3枚の写真にあるのが本文の最後で触れているレイ・アレンのBriggs Chevroletシェベル・スーパーストック“Truppi Kling Competition”。写真は昨年(編集部注・2006年)のバレット・ジャクソン・オークションに登場した時のもので、この時は115万ドルで落札されて話題になった。(編集部注・この車両はその後も何度かオークションに出品され、09年に約26万ドル、15年には45万ドルという値が付いている)



容赦なくアクセルを踏み込みパワフルなバーンナウトを見せてくれたオーナーのワイマン氏。車重が3750ポンド(約1701㎏)と、決してライトウェイトとはいえないシェベルだが、さすがに450馬力もあればこんなパフォーマンスも朝飯前。4.10:1のリアエンドを搭載する取材車は凄まじいテイク・オフを見せ、F70-14のタイヤはあっという間に地面に溶けてしまう。