A-cars Historic Car Archives #029

'70 Plymouth Road Runner 426HEMI

70年型プリマス・ロードランナー426HEMI


Text & Photo : James Maxwell

(Muscle Car Review/2009 Apr. Issue)

 Oct. 18, 2024 Upload

 

「最高にラッキーだったよ!」。

 そう語ったのは、ここで紹介する70年型ロードランナーのオーナーであるアル・ジェンセン氏。完璧主義のHEMIコレクターとして知られるジェンセン氏は、このコーナーでも常連的存在。アリゾナ州在住の氏はレストレーションに対してとにかく強いこだわりを持ち、どのような細かいディテールにも手を抜かないことで知られる存在だ。

 ある日のこと。ジェンセン氏はインターネットで売りに出されているロードランナーを見つけた。そして偶然にもオーナーがすぐ近くに住んでいるということもあり、すぐさまその状態をチェックしに行った。氏はそのマシンのVINナンバーをはじめフェンダータグ、コアサポートのナンバー、エンジン・ナンバー、さらにトランスミッション・ナンバーを調べた。そしてそのマシンがナンバーズ・マッチングであることを確認した彼は、テスト・ドライブもせずその場で購入を即決したという。

 そのロードランナーはボディに新しいペイントが施されていたものの、その他の部分はガラス、ウェザーストリップ、そしてホース類までも当時のファクトリー・パーツがそのまま残されており、状態も申し分なかった。その上オドメーターに刻まれた走行距離は僅か3万6000マイル。まさに奇跡のような70年型HEMIロードランナーとの出会いを、氏が逃すわけがなかった。

 こうして手に入れたロードランナーは誰が見てもパーフェクトな状態だったが、ジェンセン氏には気になるポイントがあった。それは426HEMIエンジン。もちろん問題なく始動するし、走りも力強かった。だが氏はエンジンから感じられる僅かな振動が気になった。“ブロックを損傷するようなトラブルが起きる前に……”と、氏はすぐにエンジンのリビルドを決意。ついでということもあり、トランスミッションとデファレンシャルのリビルドも行うことにした。

 この全てのリビルド・ワークを手掛けたのは、アリゾナでマッスルカーのレストレーションを専門とするワード・ガッパ氏。彼もまたレストアに関しては完璧主義者であり、ジェンセン氏が絶大な信頼を置く人物である。そしてガッパ氏の手によりロードランナーは新車の様なコンディション&パフォーマンスを取り戻したのである。

 当初の計画では、エンジンおよびドライブトレインのリビルドだけだったが、気が付けばダッシュボードやヘッドライナーを含むインテリア全てが張り替え、または新品に交換され、前後のブレーキ&サスペンション・コンポーネンツも完全にバラしてレストア。その他エキゾーストやリアガラスもマッチング・イヤーのパーツに交換された。

 

 

 エンジン・コンポーネンツは全てマグナフラックス加工され、新しいピストン、ピストンリング、クランクシャフト、そしてベアリングが組みつけられた後にバランス取りされた。さらにキャブレターとディストリビューターもリビルド。こうして出来上がったエンジンは最高出力523hp、最大トルク540lbftをマークした。一切のアフターマーケット・パーツが使われないストック・スペックにも関わらずこのようなパフォーマンスを叩き出してしまうのだから、やはりHEMIというのは只者ではない。

 デビューから3年目となる70年型ロードランナーは、69年型までとは異なったシートメタルが採用され、フロントおよびリアエンドにも新たなスタイリングが与えられている。また、“タクシーっぽい”などと揶揄された従来のインテリアも一新され、よりパフォーマンス・テイストが強い“ラリー・バージョン”(厳密に言えば68年型チャージャーから拝借したもの)に変更された。

 スタンダード・エンジンとして搭載されたのは335hp仕様の383cuinV8。オプションで2種類の440cuinV8(374hp仕様と390hp仕様)、そして“キングコング”の異名を取った426HEMIが用意されていた。ちなみに、ベースプライスを下げる目的でスタンダード・トランスミッションが4スピード・マニュアルから3スピードへと変更されたのもこの70年型からのこと。そのベースプライスは3034ドルだった。

 今回クローズアップしたこのロードランナーは“キングコング”HEMI(ファクトリーコード=E74)にヘビーデューティ4スピード・マニュアル(同=D21)を組み合わせ、DANA60リアエンド(3.54:1)を含む“トラックパック”(A33)を選択しているモデル。ボディーカラーはハイ・インパクト・ペイントである“インバイオレット”(カラーコード=FC7。ダッジでは“プラムクレイジー”と呼ばれた)である。このほか、タコメーター(N85)、パフォーマンス・フードペイント(V21)、クローム・スタイル・ロードホイール(W23)、サイド・ストライプ(V6Y)といったオプションが追加されているが、それら全てが70年にファクトリーで装備されたものである。ちなみにこの個体の当時の新車価格は4631.50ドルだった。

 記録によると、70年型ロードランナーにおいて4スピード・トランスミッションが搭載されたのはわずか59台。当時は23色ものボディカラーが用意されており、その59台の中で特別色であるインバイオレットでオーダーされた台数を考えると……取材車がどれだけレアな存在か想像がつくだろう。

 ジェンセン氏はこのロードランナーで各地のショーにエントリーするが、同時にストリートでドライブもしている。

「こういうマシンは飾るばかりが能じゃない。走らせてこそ意味があるんだよ」と話してくれた氏は、惜し気もなくこのスーパー・レアなロードランナーのアクセルペダルを踏み込み、フェニックス市街の道路でHEMIパワーを堪能している。

 


OEMパーツで完全な状態に組み直されたHEMIエンジンは、新車の様な輝き。アメリカのアニメでロードランナーの敵役として登場したコヨーテのキャラクターがエアクリーナーに描かれ、ロードランナーというモデルの個性を際立たせている。スーパーストック誌が69年12月号で行ったテストにおいて、70年型HEMIロードランナーはクォーターマイル13.34秒@107.52mphという結果を残している。ちなみにこのときのテスト車はAT搭載モデルだった。


ストックのキャブレターも完璧な状態にリビルド。エレクトリック・チョークのカラーコードやマスキング・テープまで当時の状態が再現されているのには恐れ入る。


1970年モデルにはこのようにMOPARロゴが書かれたエレクトロニック・ボルテージ・レギュレーターが装備された。


サイドに描かれたイラストがユニークな“エアグラバー”フード・スクープは、HEMI搭載モデルには標準で与えられたアイテム。そのほかのエンジンを搭載した車両には65.55ドルのオプション(コードN96)として設定されていた。


エンジンフードのリア側中央、ドライバーに向かって描かれたHEMIの4文字。このHEMI専用フードはもちろん426HEMI搭載車にだけ与えられたものだ。


ロードランナーが巻き上げる砂塵をイメージしたこのサイド・ストライプは“ダスト・トレイルズ”と呼ばれるオプションアイテム。


オリジナルである5スポークのクローム・スタイル・ロード・ホイール(W23)に組み合わされるのはF70×14 のグッドイヤー。ホイールの奥にはオリジナルのドラムブレーキが顔を覗かせている。


リアフェイシアを横切るホワイト・ストライプはオプション・アイテム(V8W)。この他にゴールドとブラックも用意されていた。


シートには新たなスポンジが入れられ、ヘッドレストも当時の状態に戻された。抜かりないレストレーションのおかげで新車同様のインテリアが再現されている。シートベルトには当時のファクトリー・ラベルが残っているが、こういった細かなディテールからも、この個体のコンディションのよさが窺える


70年型からロードランナーに採用された“ラリー”ダッシュボード。これは68年型ダッジ・チャージャーから流用されたアイテム。取材車はオプションのタコメーター(N85)とAMラジオ(R11)を選択している。