A-cars Historic Car Archives #032
'68 Ford Torino GT 390 Fastback
68年型フォード・トリノGT・390・ファストバック
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/2010 May Issue)
Nov. 8, 2024 Upload
68年モデルイヤー、フォード・モーター・カンパニー(以下=FoMoCo)はインターミディエイト・クラスのフェアレーンをフルモデルチェンジし、従来の角張ったデザインを一新した。そしてこの68年型でフェアレーン・シリーズのトップモデルとして登場したのがトリノGTだった。このトリノには、ファストバック、2ドア・ハードトップ、そしてコンバーチブルの3タイプが用意された。
1967年の後半に各ディーラーにリリースされた68年型トリノGTの標準搭載エンジンは、210hp仕様の302cuinV8。このほかに、2バレルで265hp仕様の390cuinV8“サンダーバード”、4バレルで325hp仕様の390cuinV8“サンダーバード・スペシャル”、そして390hpを誇る427cuinV8“コブラ”という3種類のオプショナル・エンジンが用意された。ちなみにその427“コブラ”は、FoMoCoにル・マンでの勝利をもたらしたレース・エンジンのデチューン・バージョン(カムをマイルドなものに、バルブリフターもハイドラリックに変更。デュアルキャブはシングル4バレルとされた)であり、AT仕様のファストバックおよびハードトップのみが搭載可能だった。
実はこの427“コブラ”ユニットが供給されたのは非常に短い期間のみで、68年の春には428CJ(コブラジェット)にトップ・モーターの座を譲っている。この428CJは排気量こそほとんど変わらないもののボア径が変更されてロングストローク化されており、427コブラとは全くの別物だった。また、428CJは当時ドラッグマシンのベースとしても人気の高かったマスタングにも搭載されており、ドラッグレースで下位クラスにもエントリーすることを考慮して、その出力は427cuinのコブラよりも控えめな335hpに抑えられていた。
さて、話をトリノGTに戻そう。このニューモデルに注目し、いち早くテストを行ったのはモータートレンド誌。テストカーは4バレルの390cuinV8を搭載したファストバックで、3AT、3.25リアエンドという仕様。テスト結果は、クォーターマイルで15.1秒@91mphというものだった。このテスト記事ではまずスタイリングに対して「ファストバックは非常によくデザインされている。スムースかつスポーティで、ストリートにレーサーのテイストを持ち込んだデザイン」と持ち上げつつもその視認性の悪さを指摘して「特にリアガラスからの視界が限られており、バック時や縦列駐車の時などには神経を使う。この視界の悪さに慣れるまでは相当の時間がかかるだろう」と書いた。だが、そんなネガティブなコメントが影響することもなく、トリノGTのセールスは非常に好調だった。視界がどれだけ悪かろうと、そのNASCARマシン譲りのスタイリングが多くのフォード・エンスージアストの心を掴んだのである。
68年に入って428CJを搭載したトリノGTがリリースされると、今度はスーパーストック&ドラッグ・イラストレーテッド誌(以下=SS&DI)がテストを行った。雑誌の性格上、特にパフォーマンス面にこだわるSS&DIは、ドラッグ・ストリップにおいて様々な方法を用いてトリノGT428のパフォーマンスを探った。
最初のテストでは、マシンは完全なストックの状態。アイドルを上げない状態からスタートし、Dレンジ固定(テスト車のトランスミッションはC6)で走った結果、13.95秒@101.12mphという悪くないタイムをマークした。ドライバーを含めて4087ポンド(約1853kg)という総重量を考えれば好タイムと言える。
次にSS&DIは、先と同じトリノGTに、エアクリーナーを外したり、ベルト類を緩めたりといった「小細工」を施した。タイヤの空気圧も調整し、フロントタイヤの空気圧は上げられ、リアタイヤの空気圧は下げられた。さらにトラクションを得やすいようにリアのトランクには数ケース分のオイルが積まれた。こうした即席スープアップを施したトリノは、マニュアル・シフティングでクォーターマイルを走り、13.52秒@105.05mphというベストタイムをマークした。当時のテスト用広報車両はモディフィケーションこそされていないものの、ファクトリーにてバランス取りなどをしているケースは多く、このトリノの場合もそうだった可能性がある。だが、それにしても市販車にしては充分過ぎるパフォーマンスである。
今月ご紹介するのは、アリゾナ州在住のコレクター、ジョン・サヒッド氏が所有するトリノGT。ボディはレイブン・ブラックのペイントにレッドのCストライプが入っている。4バレル仕様の390cuinV8とATという組み合わせは特に珍しいものではないが、現在までの実走行が僅か7600マイルという点も含めれば充分にレアな個体と言えるだろう。しかも取材車は、一見フルレストアされている様なコンディションでありながら、実は一切のリペアやレストレーションを受けていない。ボディも、インテリアも当時そのままの状態でショールーム・コンディションを保っているのである。これも新車時から大切にガレージ保管されてきたおかげだろう。
現オーナーのジョンは2004年にネバダ州リノで偶然このトリノを見かけ、一目惚れをした。そしてこの出会いを無駄にするまいと、その場で前オーナーに交渉を持ちかけて手に入れたという。現在はジョンのガレージを安住の地とするこのトリノだが、決してガレージで眠ったままではない。ジョンは機会があるごとにこのトリノをガレージから出し、ハイウェイでアクセルペダルを踏み込んでいる。
60年代にNASCARを初め、USACやARCAなど数々のレース・ヒストリーにその名を刻んだトリノGT。その存在がなければ、その後エアロ・ウォーズが繰り広げられたNASCARで大活躍したトリノ・タラデガも生まれなかったはずだ。そして実際のレースで勝利を積み重ねたことで、トリノGTは好調なセールスを記録した。
“Race on Sunday, Sell on Monday”の時代。
ここにあるトリノは、まさにその生き証人なのである。
ファストバックの長いルーフラインを巧みにクオーターパネルへと繋げたこのデザインは、当時“キック・アップ”デザインと呼ばれたもの。デザイン・コンセプトが似ているAMCマーリンやダッジ・チャージャーのデザインと比較しても、全体的にスッキリした印象だ。サイドウィンドウをベントレスとしたことも、クリーンなデザインの実現に貢献している。
68年型トリノGTが搭載できた390cuinV8エンジンは2種類。ひとつは“サンダーバード”と呼ばれた圧縮比9.5:1、最高出力265hpの2バレル仕様(レギュラー・ガソリン仕様)。もうひとつは“サンダーバード・スペシャル”と呼ばれた圧縮比10.5:1、最高出力325hpの4バレル仕様(プレミアム・ガソリン仕様)で、撮影車はこちらを搭載している。
この68年モデルより、連邦安全基準によってサイドマーカーの装備が義務付けられた。これに対しフォードのスタイリストは、インターミディエイト・モデルにおいてはフロントからサイドにまわり込んだライトを採用。そこにパーキングライトとサイドマーカーの機能を盛り込むことで対処した。
リアパネルに備わるディーラー・エンブレムから、このトリノがサウスカロライナ州のジョージ・コールマン・モーター・カンパニーからデリバリーされたことがわかる。
撮影車が履くスタイルド・ホイールはトリノGTの標準装備。なお、タイヤはオリジナルのホワイトウォールから、ご覧のようなレッドストライプに変更されている。
トランクにはオリジナルのスペアタイヤ、ホワイトウォールのF70×14ワイドオーバルが収まる。もちろん未使用だ。
新車時の雰囲気を現在に伝えるインテリア。衝突時の乗員保護を目的として厚いパッドが使われたダッシュや衝撃吸収ステアリングなどが採用されたのはこの68年型から。奥まった4連ゲージがレーシーな雰囲気を醸し出す。
ディーラーからデリバリーされた後、撮影車はほとんどの時間をガレージ内で過ごしてきた。生産から40年以上が過ぎた現在でも、オドメーターが示す距離は僅かに7600マイル。もちろん実走行距離である。
ご覧のように艶も張りも失われていないバケットシートもオリジナルで、張り替えなどは一切行われていない。ちなみにこのバケットシートおよびセンターコンソールはオプション・アイテムで、当時の価格はそれぞれ110.16ドル、50.66ドルだった。
助手席側のダッシュ下に備わるのは、ARCエレクトロニクス2500というレコードプレーヤー。これは現オーナーが高校を卒業した67年に、そのお祝いとして両親がプレゼントしてくれたもの。オーナーはこれを箱に入れたまま新品状態で大切に保管していたが、このトリノと年代的にもマッチするということでこうして装着された。
モータートレンド誌で「視認性が悪い」と指摘されたリアウィンドウ。美しいルーフラインに沿って大きなガラスがテール近くまで伸びているが、その角度と高さによって、ご覧のように運転席からは後方の路面が全く見えない。