A-cars Historic Car Archives #038

'70 Chevrolet Corvette Stingray Convertible

70年型シボレー・コルベット・スティングレイ・コンバーチブル


Text & Photo : よしおか和

(StingRay x Stingray/2009 Oct. Issue)

 Dec. 13, 2024 Upload

 

 第3世代のコルベット(C3)の開発は65年にスタートした。ヒントになったのはビル・ミッチェルがラリー・シノダとともに作り上げたエクスペリメンタル・モデルの“マコ・シャークⅡ”だった。65年4月のNYショーに出展されたこの派手なシルエットを持つ近未来的なクーペは、ジャーナリストにも一般ギャラリーにも大好評で、多くがその市販化を熱望した。それはハイパフォーマンス指向を加速度的に強めてきたアメリカ唯一のスポーツカーを表現するに相応しいデザインであり、68年型として登場した新しいコルベットがこれをベースに具現化された事実は誰もが頷けるところだろう。ただし、マコ・シャークⅡが完全なるクローズド・クーペだったのに対し、市販された第3世代コルベットはTトップのエアロ・クーペと伝統的なコンバーチブルの2本立てで、やはりここでも大衆の多くが昔ながらのオープン・スポーツカーを望んだ事実が窺える。

 デビュー翌年となる69年型で、3代目のコルベットに再びスティングレイの名が与えられた。68年型ではバッジ類が何も飾られることのなかったフェンダーサイドに、この年再び深海に棲むエイを意味するスクリプトが輝いたのである。もっとも67年型までの初代スティングレイ(=C2)ではSting Rayと綴られたのに対し、この68年型以降の2代目スティングレイではStingrayと一語で表されるようになった。些細な点ではあるが、コルベット・ファンを自認するならばこのあたりの区別は是非ともこだわりたいポイントだ。そのほか、69年型における目立った変更点としては、アウトサイド・ドア・オープニング・チャンネルのデザイン、オプショナル・サイドマウント・エキゾーストの復活、フレームの強化などが挙げられる。

 そして、ここに登場している取材車はさらにその翌年、70年型のコンバーチブルだが、この70年型における変更点も少なくない。まずは細かなところだが、ラジエターグリルが横スリットから格子状のデザインに変わり、ポジショニングランプが大型化、フロント・タイヤハウス後方のエアベントも縦型のスリットから格子型に変更された。ロッカーパネルはステンレス製となり、テールまわりではエキゾーストチップが丸形から長方形へと変化した点が目立つ。しかし、なによりもこの70年型で大きく変化したのは、搭載エンジンのラインナップだろう。

 

 

 すでに69年型でスモールブロックV8が327cuinから350cuinへとスイッチされているのだが、この70年型からはオプションのビッグブロックV8が、427cuin(ボア4.215×ストローク3.76インチ)から454cuin(ボア4.251×ストローク4.00インチ)に切り替えられているのだ。この年のユニットはLS5なるRPOコードで示され、圧縮比10.25:1、最高出力390hp@4800rpm、最大トルク500lb-ft@3400rpmという実力。こうしたカタログ数値だけではピンと来ないかもしれないが、よりトルクフルで力強いだけでなく、より扱い易く進化したラットモーターと言って良いだろう。これは例えば多くのユーザーがエアコンを望むようになったという様に、時代のニーズに合わせた結果とも考えられる。

 撮影車はまさにこの454 LS5を搭載したナンバーズマッチのオリジナルカーである。なお、LS5の上に更なるパフォーマンスを追求した11.25:1、最高465hpの454 LS7なるオプショナルユニットも用意されていたのだが、実際にこのエンジンが搭載されたのは1台のみで、しかもそれはサーキットやストリップでメディアがテストランをレポートしたいわゆる広報車両。一般ユーザーのもとにこのクルマが納められたという記録はない。

 


ペイントコード972、クラシックホワイトの美しいボディ。過去にリペイントを行った記録こそあるが極めてオリジナル性の高い個体で、オール・ナンバーズマッチ。しかもオール・ヒストリー付きであり、本国でも滅多にお目にかかれないシロモノだ。過去にはコルベットの評価において権威を持つNCRS(ナショナル・コルベット・レストアラーズ・ソサイエティ)のアワードも受賞している。


搭載するのはLS5と呼ばれるボア4.251×ストローク4.00インチの454cuinV8。圧縮比10.25:1で、最高出力390hp@4800rpm、最大トルク500lbft@3400rpmをマークする。取材車の搭載するLS5はマッチングのオリジナル・モーター。取材車はファクトリーACも装備しているが、コルベットのオプショナル・ラットモーターが427から454へとスイッチされた理由のひとつとして、ユーザーの多くがACを望むようになったことが挙げられる。このLS5は、よりトルクフルで扱い易いという点で時代に適応したハイパフォーマンスユニットといえよう。


ラットモーター(=ビッグブロックV8)を備えるモデルにはパワーバルジ付きのフードが与えられた。これは前年までの427cuinV8搭載モデルにも共通している事柄だが、この70年型からは隆起した部分のサイドに454のバッジが飾られている。


フロント・グリルはこの70年型でデザインが変更され、前年までのブラックの横スリットから、格子型で表面がクローム仕上げされたものに変わっている。また、68年型よりコルベットのヘッドライトは回転式から上にせり上がるシステムに変更されている。


初期のC3はアイアン・バンパーが魅力とされ、それがそのままモデルの愛称にもなっているが、このダックテールもまたこの時代ならではの魅力的な要素のひとつ。バランスパネルをカットした部分にフィニッシュするエキゾースト・チップのデザインも、この70年型からは丸形から大きめの長方形へと変更されている。


トリムコード407、オリジナルの姿を今に残すレッド・バイナルのインテリア。白いボディカラーに赤いインテリアという組み合わせは、コルベットのデビューモデルである53年型を彷彿とさせるが、撮影車の美しさはため息ものだった。コンソールに張られた化粧プレートには搭載エンジンのスペックが示される。これもスティングレイの特徴のひとつ。


C2最終となった67年型のボルトオン・ホイールを連想させる純正のデラックス・ホイールカバー。新車時のオリジナル・タイヤはF70×15のホワイトレターだったが、取材車は235/60-15をセットアップしている。また、フロント・タイヤハウス後方のエア・アウトレットはこの70年型からデザインが変更され、ご覧のような格子型になった。