A-cars Historic Car Archives #051
'89 Ford Mustang LX Sedan
89年型フォード・マスタング・LX・セダン
Text & Photo : よしおか和
(Mustang Book / 2010 Oct. )
Mar. 19, 2025 Upload
FOXボディを採用した第3世代のマスタングは、排ガス規制や省エネルギー問題でデトロイト全体が苦悩していた時代に誕生したこともあって、当初はそのコンセプトや方向性に明らかに迷いが感じられた。それが最も如実に表れていたのが、あまりにもバリエーションの多かったエンジン・ラインナップである。デビュー時には4シリンダーとそのターボチャージド版、直列6気筒にV6と、伝統的なV8以外に何種類ものユニットを用意。後にSVOなる直4ターボのハイパフォーマンス版を開発、発表した時点では、本気でV8を捨ててその路線に走りそうな兆しも見受けられた。
しかし多くのファンが、アメリカ国民にとって特別な意味合いを持つマスタングには、やはり伝統的なV8を継承して欲しいと望んだのは間違いない。結局最後は5.0リットルV8がマスタングの最強オプションとして生き残った。そして84年型ではホーリー製4バレル・キャブレターを備えるバージョンと並行してEFI仕様も投入。これが徐々に熟成され、大幅なフェイスリフトと共にグレードを整理した87年型で完成の域に達したのである。
5.0HOと称するこのユニットは、インテーク・ハウジングの上面にその文字を誇らし気に飾り、カタログでも225hpという立派なパワー数値を示していた。そしてこの87年のエンジン・ラインナップを見るとすでに直4ターボもV6も姿を消しており、2.3リットルの直4か、この5.0リットルV8かという至極シンプルな状況になっていたのである。
87年型のボディ・スタイルとしては、相変わらずクーペ、ハッチバック、コンバーチブルの3種類が用意され、ハッチバックとコンバーチブルにはGTモデルも設定された。このGTの判別ポイントとなるのは専用のグランドエフェクトで、それを有さないレギュラーモデルの方はLXと判断できた。また、クーペはすべてLXだったが、V8を選択すればGTと同じ5.0HOが搭載された。LXにはGTにパッケージされるヘビーデューティ・サスペンションやトラクション・ロック・アクスルこそ与えられなかったものの、充分にパワフルな走りを楽しめるクルマであり、まさに野生馬の復活を実感させるモデルでもあった。
撮影車は89年型のLXだが基本的なスペックは変わらず、カタログ数値だけを見るならモデルイヤーによって若干の違いはあるものの、この世代の最終型となった93年型まで内容はほぼ同じと解釈しても間違いではないだろう。
歴代のマスタングに搭載されたV8の名機と言えばいろいろあると思うが、その中でも極めて息が長かったのがウインザーの302cuin(=5.0リットル)である。特に撮影車の世代のHOユニットは、それを載せる車体がコンパクトかつ軽量だったこともあって、そのパフォーマンスが高く評価されている。本国では『MUSTANG 5.0』という雑誌が存在するほど走りを楽しむ若者を中心に人気を集めたのだが、どうも日本ではその実力が過小評価されているようである。
搭載エンジンは5.0リットルV8HO。5.0リットルV8にEFI仕様が登場した84年以降、マスタングのエンジン・ラインナップでは4バレル・キャブレター仕様をHO仕様として区別してきたが、86年型で最高出力を200hpまで高めたEFI仕様に一本化されると同時にHOの名前も引き継がれ、87年型では225hpまでパワーアップしてその肩書きを揺らぎないものにした。最高出力はこの89年型でも変わらず、225hp@4200rpm。最大トルクは300lbft@3200rpm。
横に長い一体化されたテールレンズは、いかにも80年代らしいデザイン。2ドア・セダンはLXのみの設定だったが、GTのようにエアロパーツを持たないことで逆にセダン独特のシンプルなスタイルが強調されている。全長×全幅×全高は、179.6×69.1×52.1インチ(約4562×1755×1323㎜)。コンパクトなサイズ、剛性面で有利な2ドア・セダン、そしてパワフルな5.0リットルV8搭載ということから、アメリカでは中古車になってからもチューニング・カーの良いベースとして若者を中心に高い人気を得ていた。
アメリカ国内において89年型LXのホイールは14インチが標準。撮影車の履く10スロットの15インチ・アルミはオプションだったが、日本へ正規輸入されたモデルにおいてはこの15インチが標準とされていた。タイヤサイズはP225/60-15。なお、ブレーキはLX、GTに関係なく、前ディスク、後ドラムが標準とされた。